大判例

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東京地方裁判所 昭和42年(行ウ)61号 判決

原告

小川嘉吉

外一四四名

原告番号一、三、五、六及び一四ないし一八

の原告らの訴訟代理人弁護士

大口昭彦

右以外の原告らの訴訟代理人弁護士

小長井良浩

葉山岳夫

小林優

藤田一伯

木内俊夫

同訴訟復代理人弁護士

大森明

川村明

後藤孝典

糠谷秀剛

山根伸右

原告番号二、四、八、一九、二三、二八、二九、

三七、三八、五一、五六、六〇、六二、六四、

七二、七三、八〇、八六、八九、一一二及び一一七

の原告らの訴訟代理人弁護士

一瀬敬一郎

被告

運輸大臣

伊藤茂

右指定代理人

矢吹雄太郎

外一二名

主文

一  被告が昭和四二年一月三〇日付官報によってした新東京国際空港に係る進入表面、転移表面及び水平表面の告示の取消しを求める訴えを却下する。

二  別紙原告目録の原告番号一三、二四、四二、四四、四六、四七、四九、五〇、五四、一二一及び一二三の原告らが提起した本件の訴えをいずれも却下する。

三  昭和四二年一月三〇日付官報をもってした告示に係る、被告が新東京国際空港公団に対してした新東京国際空港設置のための工事実施計画の認可の取消しを求める訴えのうち、別紙原告目録の原告番号一一一ないし一二〇、一二二及び一二四ないし一四五の原告らが提起した分を却下する。

四  被告が昭和四二年一月三〇日付官報をもってした告示に係る新東京国際空港についての延長進入表面、円錐表面及び外側水平表面の指定の取消しを求める訴えのうち、別紙原告目録の原告番号一ないし一二、一四ないし二三、二五ないし四一、四三、四五、四八、五一ないし五三及び五五ないし一一七の原告らが提起した分を却下する。

五  昭和四二年一月三〇日付官報をもってした告示に係る、被告が新東京国際空港公団に対してした新東京国際空港設置のための工事実施計画の認可の取消しを求める訴えのうち、別紙原告目録の原告番号一ないし一二、一四ないし二三、二五ないし四一、四三、四五、四八、五一ないし五三及び五五ないし一一〇の原告らが提起した分に係る請求を棄却する。

六  被告が昭和四二年一月三〇日付官報をもってした告示に係る新東京国際空港についての延長進入表面、円錐表面及び外側水平表面の指定の取消しを求める訴えのうち、別紙原告目録の原告番号一一八ないし一二〇、一二二及び一二四ないし一四五の原告らが提起した分に係る請求を棄却する。

七  訴訟費用は、原告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告の行った次の(一)ないし(三)の各処分をいずれも取り消す。

(一) 昭和四二年一月三〇日付官報をもってした告示に係る、被告が新東京国際空港公団に対してした新東京国際空港設置のための工事実施計画の認可

(二) 被告が昭和四二年一月三〇日付官報をもってした告示に係る新東京国際空港についての延長進入表面、円錐表面及び外側水平表面の指定

(三) 被告が昭和四二年一月三〇日付官報をもってした新東京国際空港に係る進入表面、転移表面及び水平表面の告示

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告の答弁

1  本案前の答弁

原告らの訴えをいずれも却下する。

2  請求の趣旨に対する答弁

原告らの請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  請求原因

一  本件処分の存在等

1  既設の東京国際空港(以下「羽田空港」という)に代わる新たな国際空港として新東京国際空港(以下「本件空港」という)を設置するため、昭和四〇年六月一日新東京国際空港公団法が制定され、同月二日公布された。同法は、一条において、新東京国際空港公団(以下「公団」という)は、本件空港の設置及び管理を効率的に行うこと等により、航空輸送の円滑化を図ること等を目的とするものであることを、その二条において、本件空港は、長期にわたって航空輸送需要に対応することができるものであること等の要件を備える公共用飛行場として、東京都周辺の地域で政令で定める位置に設置するものとすることをそれぞれ定め、三条以下に、公団を法人とすることや、その組織等についての定めを置くが、右二条以外の規定は、同条の政令の公布の日の後において政令で定める日から施行するものとされ、右二条のみが、公布の日から施行された(同法附則一条)。右二条で定める位置としては、当初千葉県富里村付近が有力とされていたが、地元の強硬な反対運動によって同候補地への空港設置が危ぶまれる状況となっていた。昭和四一年七月四日本件空港の位置を千葉県成田市三里塚町を中心とする地区とする旨の閣議決定があり、右二条の政令で定める位置は千葉県成田市とする旨の「新東京国際空港の位置を定める政令」(昭和四一年七月四日政令第二四〇号)が制定、公布された。また、同法附則一条の規定に基づき、新東京国際空港公団法の施行期日を昭和四一年七月七日とする旨の「新東京国際空港公団法の施行期日を定める政令」(昭和四一年七月六日政令第二四三号)が制定、公布された。

2  被告は、昭和四一年一二月一二日、新東京国際空港公団法二一条の規定に基づき、同法二〇条一項一号及び二号の業務、すなわち本件空港及びその航空保安施設の設置並びに管理についての基本計画(以下「本件基本計画」という)を別紙のとおり定め、これを公団に指示した。

3  公団は、航空法五五条の三第一項の規定に基づき、本件基本計画に基づいて本件空港設置のための工事実施計画(以下「本件実施計画」という)を作成し、昭和四一年一二月三一日、被告に対し、左記のとおり、その認可を申請した(以下「本件申請」という)。

(一) 飛行場の位置及び標点の位置

位置 千葉県成田市

標点の位置

北緯三五度四五分五〇秒

東経一四〇度二三分二八秒

標高四一メートル

(二) 飛行場の種類、着陸帯の等級及び滑走路の強度

飛行場の種類 陸上飛行場

着陸帯の等級 着陸帯A A級

着陸帯B B級

着陸帯C A級

滑走路の強度

滑走路A 単車輪荷重四五トン

滑走路B 単車輪荷重二五トン

滑走路C 単車輪荷重四五トン

(三) 計器着陸又は夜間着陸の用に供するか否かの別

計器着陸及び夜間着陸の用に供する。

(四) 飛行場の利用を予定する航空機の種類及び型式

ボーイング式七四七型旅客機等国際線用輸送機及びボーイング式七二七型国内線用輸送機

(五) 飛行場の施設の概要

敷地面積 一〇六四万九二〇〇平方メートル

着陸帯

A 長さ四一二〇メートル 幅三〇〇メートル

B 長さ二六二〇メートル 幅三〇〇メートル

C 長さ三三二〇メートル 幅三〇〇メートル

滑走路

A 長さ四〇〇〇メートル 幅六〇メートル

方位 北一四九度三〇分〇〇秒東(真方位)

舗装の種類 アスファルトコンクリート舗装

B 長さ二五〇〇メートル 幅六〇メートル

方位 北一四九度三〇分〇〇秒東(真方位)

舗装の種類 アスファルトコンクリート舗装

C 長さ三二〇〇メートル 幅六〇メートル

方位 北二四度一六分五七秒東(真方位)

舗装の種類 アスファルトコンクリート舗装

誘導路

延長三万〇一一七メートル 幅三〇メートル

舗装の種類 アスファルトコンクリート舗装

エプロン

面積 一九〇万七七六三平方メートル

舗装の種類 セメントコンクリート舗装

構内道路、駐車場、排水施設、飛行場標識施設その他の施設各一式

(六) 設置予定の航空保安施設の概要

航空保安無線施設一式、航空灯火一式

(七) 工事の着手及び完成の予定期日

工事の着手予定期日 工事実施計画が認可された日

完成の予定期日

ア 滑走路A及びこれに対応する諸施設

昭和四六年三月三一日

イ その他の施設

昭和四九年三月三一日

(八) 予定する飛行場の進入表面、転移表面若しくは水平表面(以下、これら表面を一括して「進入表面等」という)の上に出る高さの物件又はこれら表面に著しく近接した物件の有無

該当する物件なし

4  被告は、航空法五五条の三第一項前段に基づいて本件申請を認可し(以下「本件認可」という)、あわせて同法五六条の二第一項に基づき、本件空港につき延長進入表面、円錐表面及び外側水平表面(以下、これら表面を一括して「延長進入表面等」という)を指定した(以下、延長進入表面等の指定を「本件指定」という。また、本件認可と本件指定をあわせて「本件処分」という)。

本件空港の位置及び範囲、その進入表面等の範囲並びに延長進入表面等の範囲並びに供用開始期日は、航空法五五条の三第二項及び五六条の三第二項において準用される同法四〇条に基づき、昭和四二年一月三〇日付けの官報によって左記のとおり告示された(以下「本件告示」という)。

(一) 飛行場の位置

千葉県成田市(標点位置 北緯三五度四五分五〇秒、東経一四〇度二三分二八秒、標高四一メートル)

(二) 飛行場の範囲

別紙第1図の一点破線によって囲まれる部分

(三) 着陸帯

別紙第1図の着陸帯A、B及びCの三つであり、その範囲は同図面に表示のとおり

(四) 進入区域

別紙第2図及び第3図の緑色で表示の部分

(五) 進入表面等

(1) 進入表面

着陸帯A、B及びCの各短辺に接続し、それぞれ外側上方に水平面に対し五〇分の一の勾配を有する平面であってその投影面が進入区域と一致するもの

(2) 転移表面

各進入表面の斜辺を含む平面及び各着陸帯の長辺を含む平面であって、着陸帯の中心線を含む鉛直面に直角な鉛直面との交線が水平面に対し進入表面又は着陸帯の外側上方に七分の一の勾配となるもののうち、進入表面の斜辺を含むものと当該斜辺に接する着陸帯の長辺を含むものとの交線、これらの平面と水平表面を含む平面との交線及び進入表面の斜辺又は着陸帯の長辺によって囲まれる部分(それら転移表面の投影面は、別紙第2図及び第3図の橙色で表示の部分)

(3) 水平表面

別紙第2図及び第3図の飛行場の標点の垂直上方四五メートルの点を含む水平面のうち、この点を中心として半径四〇〇〇メートルで描いた円(同図にそれぞれエと表示のもの)

(六) 供用開始予定期日

(1) A滑走路及びこれに対応する諸施設 昭和四六年四月一日

(2) B滑走路及びこれに対応する諸施設 昭和四九年四月一日

(3) C滑走路及びこれに対応する諸施設 昭和四九年四月一日

(七) 延長進入表面等

(1) 延長進入表面

各着陸帯の短辺にそれぞれ接続する各進入表面を含む平面のうち、進入表面の外側底辺、進入表面の斜辺の外側上方への延長線及び当該底辺に平行な直線でその進入表面の内側底辺からの水平距離が一万五〇〇〇メートルであるものによって囲まれる部分(それらの投影面は別紙第4図の赤色で表示の部分である。その最も外側の標点からの高さは三〇〇メートルとなる)

(2) 円錐表面

水平表面の外側に接続し、かつ、飛行場の標点を含む鉛直面との交線が水平面に対し外側上方に五〇分の一の勾配を有する円錐面であって、その投影面が当該標点を中心として一万六五〇〇メートルの半径で描いた円周によって囲まれる部分(その投影面は別紙第4図の水色表示の部分である。その外周円の標点からの高さは二九五メートルとなる)

(3) 外側水平表面

右円錐面の上辺を含む水平面であって、その投影面が飛行場の標点を中心として二万四〇〇〇メートルの半径で水平に描いた円周によって囲まれる部分のうち、その投影面が水平表面と円錐表面の投影面と一致する部分を除く部分(その投影面は別紙第4図の黄色表示の部分である。その外周円の標点からの高さは二九五メートルとなる)

二  原告らの地位

1  別紙原告目録の原告番号一ないし七の原告らは、本件認可に係る本件空港の飛行場の範囲内にある土地又は建物を所有してそこに居住し、同範囲内にある土地に田畑を所有し又は賃借してそれを耕作している者である。

2  同目録の原告番号八ないし一二の原告らは、右飛行場の範囲内にある土地に田畑を所有してそれを耕作している者である。

3  同目録の原告番号一四ないし二三、二五ないし四一、四三、四五、四八、五一ないし五三及び五五の原告らは、右飛行場の範囲内にある共有地を所有している者である。

4  同目録の原告番号五六ないし六七の原告らは、本件告示に係る進入表面及び転移表面の投影面内にある土地又は建物について所有権、賃借権等の権利を有する者である。

5  同目録の原告番号六八ないし一一〇の原告らは、本件告示に係る水平表面の投影面内にある土地又は建物について所有権、賃借権等の権利を有するものである。

6  同目録の原告番号一一一ないし一一七の原告らは、公共用飛行場周辺における航空機騒音による障害の防止等に関する法律(昭和四二年法律第一一〇号、以下「航空機騒音防止法」という)に基づき、本件空港について第一種区域に指定された区域内(その範囲は別紙第5図に表示のとおり)にある土地又は建物につき、所有権、賃借権等の権利を有する者であって、右4及び5の原告らを除くものである。

7  同目録の原告番号一一八ないし一二〇、一二二及び一二四ないし一四五の原告らは、本件指定によって指定された円錐表面の投影面内にある土地又は建物について所有権、賃借権等の権利を有する者である。

三  本件認可には、本件申請が航空法所定の認可要件を欠くのに行われた違法及び認可に至る手続要件を満たさなかった違法があり、進入表面等の告示及び本件指定も違法なものであるから、原告らは本件認可、本件指定及び進入表面等の告示の取消しを求める。

第三  被告の本案前の抗弁

一  本件認可の行政処分不該当性

1  本件認可は、これによって、直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものとしての公権力の行使に当たる行政庁の行為に該当しないから、取消訴訟の対象となる行政庁の処分とはいえない。

2  本件空港建設事業の施行手続

本件空港の建設については、被告は、滑走路の数、配置、長さ、幅及び強度、着陸帯の幅、空港敷地の面積、航空保安施設の種類、工事完成の予定期限等の事項に関する基本計画を定めて、これを公団に指示し(新東京国際空港公団法二一条、同法施行令三条)、公団は、その基本計画に基づいて工事実施計画を作成し、被告の認可を受ける(航空法五五条の三第一項)。公団は、右認可を申請するには、被告に対し、航空法施行規則七六条の二によって準用されている同規則七六条一項一号ないし一三号所定の諸事項を記載した工事実施認可申請書並びに同規則七六条二項所定の添付書類及び図面を被告に提出しなければならない。

3  公団と被告及び国との関係

公団は、長期的な国際航空輸送需要に対応する公共用飛行場たる本件空港の設置及び管理を効率的に行なうこと等により、航空輸送の円滑化を図り、もって航空の総合的な発達に資するとともに、わが国の国際的地位の向上に寄与することを目的とし、政府の全額出資により設立された法人であり(新東京国際空港公団法一条ないし三条及び五条)、その総裁及び幹事は被告により任命され(同法一一条一項)、その副総裁及び理事は被告の認可を受けて総裁により任命される(同条二項)。また、公団が本件空港の設置及び管理業務を行うについては、被告の定めた基本計画に従わなければならず(同法二二条)、業務開始の際に、業務方法書を作成して被告の認可を受けることを要し(同法二四条)、毎事業年度ごとに予め、事業計画、予算及び資本計画を作成して被告の認可を受けなければならず(同法二六条)、毎事業年度終了後三か月以内に、財産目録、貸借対照表及び損益計算書を作成して被告の承認を受けることを要し(同法二七条一項)、損益計算において生じた利益は所定の積立金を控除した残額を国庫に納付しなければならない(同法二八条)。公団が借入金や重要財産の処分をするについては被告の認可を受けることを要し(同法二九条一項、三三条)、役員及び職員に対する給与及び退職金の支給基準を定める場合には被告の承認を要する(同法三四条)。更に、被告は、公団を監督し、公団に対し、その業務に関し監督上必要な命令をしたり、業務及び資産の状況に関し報告をさせたり、公団事務所に立ち入って必要な検査をしたりすることができる(同法三六条、三七条)。

4  右2のとおり、公団は、被告指示の基本計画に従って本件空港を設置することを義務付けられているのであり、しかも、右3において述べた公団の設置目的、資本金の出資者、人事及び業務遂行等に対する被告の監督権限に関する法の規定から明らかなとおり、公団は、形式的には国から独立した法人であっても、実質的には、国と同一体の組織であって、機能的には被告の下部組織を構成し、広い意味での国家行政組織の一環をなしているということができるのである。したがって、被告が航空法五五条の三によって公団に対して行った本件認可は、公団が作成した本件実施計画と被告指示の本件基本計画との適合性等について、被告が公団の監督機関として審査したうえ行う「承認」であって、上級行政機関が下級行政機関に対し監督手段として行う「承認」の性質を有するものである。すなわち、本件認可は、行政機関相互間の内部的行為と同視すべきものであり、それ自体が対外的な効果を持ち直接国民の権利義務を形成したり範囲を確定するものではないと解すべきである(最高裁昭和五三年一二月八日第二小法廷判決民集三二巻九号一六一七頁参照)。

5  なお、被告は、航空法五五条の三第二項、四〇条により、本件認可に伴って本件告示を行ったが、これは、名宛人の存在しない不特定多数の者に対する公示行為であって、その目的は広く国民一般に対し将来設置が予定される空港の概要を告知するに過ぎないものである。もっとも、進入表面等が告示されると、これら表面の投影面内にある土地の所有者等に対し一定の高さの物件の設置等が禁止されるが、このような用益の制限は、新たにそのような制約を課する法令が制定された場合におけると同様に、当該地域内の不特定多数の者に対する一般的抽象的な制約に過ぎないものであって、空港開設を円滑に行うための付随的効果とみなされるべきである。したがって、本件認可ないし進入表面等の告示は、特定個人に対する具体的な権利侵害を伴う行政処分ということはできないものである(最高裁昭和五七年四月二二日第一小法廷判決民集三六巻四号七〇五頁参照)。

二  本件指定の行政処分不該当性

本件空港は第一種空港とされているところ、被告は、第一種空港について、延長進入表面等を指定することができ(航空法五六条の二第一項)、延長進入表面等を指定したときは、これらを告示するとともに現地で掲示することとされている(同法五六条の三第二項)。延長進入表面等の告示があったときは、何人も、告示された延長進入表面等の上に出る高さの建造物、植物その他の物件を設置し、植栽し、又は留置してはならず(同法五六条の四第一項)、飛行場設置者は、これに違反して設置、植栽又は留置された物件の所有者又は権原を有する者に対し、当該物件の除去を求めることができるとされている(同法五六条の四第三項、四九条二項)。しかしながら、延長進入表面等の指定は、名宛人の存在しない不特定多数の者に対する一般処分であって、進入表面等について述べたところと同様に、特定個人に対する具体的な権利侵害を伴う行政処分ということはできないものである。

三  本件処分の取消しを求める原告適格の欠如

仮に本件認可及び本件指定が取消訴訟の対象となる行政庁の処分であるとしても、本件処分によって法律上補償請求権又は買取請求権を取得するような具体的な財産権の侵害を受ける者でなければ、その取消しを求める原告適格を有しない。

1  進入表面等及び延長進入表面等の告示が行われると、地上の土地所有者その他の権原を有する者は、それら表面の上に出る建造物、植物その他の物件を設置し、植栽し、又は留置してはならないという一般的な不作為義務を負い、土地の用益に法律上の制約を受ける。しかし、このような制約は、本来は、当該区域内の不特定多数の者に対する一般的、抽象的な用益制限に過ぎないのであって、将来にわたり右のような制約が生じるということから直ちに補償請求権が生じるものではない。すなわち、右のような用益の制約は、財産権の内容が公共の福祉に適合するように法律で定められるべきことを規定する憲法二九条二項の趣旨から導かれる財産権の内在的な制約にすぎないのである。

ところで、進入表面等及び延長進入表面等の告示後、それら表面の投影面の区域内に課される用益の制約について、航空法が個別的に補償を要するとしているものは次のとおりである。

(一) 飛行場設置者は、進入表面等及び延長進入表面等の上に出る物件の所有者その他の権原を有する者に対し、通常生ずべき損失を補償して、当該物件のそれら表面の上に出る部分の除去を求めることができ(航空法五六条、五六条の四第三項、四九条三項)、当該物件又はこれが存する土地の所有者は、当該物件の除去によって、当該物件又は土地を従来利用していた目的に供することが著しく困難となるときは、飛行場の設置者に対し、当該物件又は土地の買収を求めることができる(同法五六条、五六条の四第三項、四九条四項)とされている。

(二) 公共の用に供する飛行場(本件空港は公共の用に供する飛行場とされている)の設置者は、進入表面等の投影面と一致する土地(進入表面等からの距離が一〇メートル未満のものに限る)について同法四九条一項の規定による用益の制限により通常生ずべき損失を、当該土地の所有者その他の権原を有するものに対し補償しなければならず(同法五六条、五〇条一項)、右土地の所有者は、右用益の制限によって当該土地を従来利用していた目的に供することが著しく困難となるときは、同法四九条四項の場合を除き、飛行場の設置者に対し、当該土地の買収を求めることができる(同法五六条、五〇条二項)とされている。

2  右の補償又は買収請求権は、告示の時点で存在する進入表面等又は延長進入表面等の上に出る障害物の除去についてのものであるところ、このような既存障害物の除去が強制されるのは、財産権に内在する制約を超える個別的な権利侵害であり、憲法二九条三項に定められた正当な補償が必要と考えられたためであると解する余地がある。そうであるとすれば、本件空港につき、本件処分当時、(一)進入表面等及び延長進入表面等の上に出る障害物の所有者その他の権原を有する者又は当該物件の存する土地の所有者、(二)進入表面等の投影面内にある土地のうちそれら表面との距離が一〇メートル未満の部分の所有者その他の権原を有する者のいずれにも該当しない原告は、法律上補償又は買取請求権を取得しないのであり、本件処分の取消しを求めるための「法律上保護された利益」を有しないから、本件訴訟の原告適格を有しないものである。そして、本件処分当時には、進入表面等及び延長進入表面等の上に出る障害物は存在していなかったものであるから、右(一)に該当する者がなかったことは明らかである。

3  原告らは、本件認可や本件指定の際には、必ず公聴会を開催して利害関係人の意見を聴かなければならないとされていることを原告らの原告適格を根拠付ける理由の一つとしているが、航空法三九条二項(同法五五条の三第二項及び五五条の三第二項で準用される場合を含む)に規定する公聴会は、空港設置の認可や延長進入表面等の指定の社会的、経済的な影響が大きいことから、広範かつ多岐にわたる関係者の意見を聴取することによってその判断の適正を期するために設けられた手続であって、これに参加する資格のある者すべてについてその権利利益を個別的に保護する目的に出るものではない。公聴会に参加する資格のある者には「飛行場を利用する者」まで含まれているのである(同法施行規則八〇条五号)。

4  なお、別紙原告目録の原告番号六、二一、三一、四一、四五、五三、五五、五八、六六、六八、七二、一一一、一一六、一二二、一三〇、一三九及び一四五の原告らは、いずれも本訴提起後死亡した。

また、同目録の原告番号一三、二四、四二、四四、四六、四七、四九、五〇、五四、一二一及び一二三原告らは、いずれも本訴提起後同目録記載の肩書住所地の不動産を売却して原告らの主張する区域のいずれにも属さない地域に転居したものである。

第四  本案前の抗弁に対する原告の反論

一  本件認可の行政処分性

1  本件認可は、国とは独立した法人格を有する団体である公団に対し、本件空港設置事業の実施権限を付与するものであり、しかも、本件空港設置に関する一連の行政手続を完結させる処分であるから、これが行政機関相互間の内部的行為であるとはいえない。

国が特別の法人格を持つ公団を設立し、これにわが国の主要国際空港たる本件空港の設置及び運営をさせることになったのは、計画段階から一貫した責任主体にその業務を遂行させることが合理的であること、官庁直轄事業とすることから生じる人事面の制約、予算会計面の制約等を排し弾力的な業務遂行が必要となることを考慮したためである。要するに官庁直轄事業にはなじまないからこそ公団が設立されたのであって、公団を被告との関係で下級行政機関と同視すべきなどという被告の主張は、公団設立の意図を全く無視するものである。

2  そもそも、ある行政庁の行為が行政機関相互間(又は行政機関と行政機関類似の特殊法人の間)の行為であるということから直ちに当該行為が取消訴訟の対象となる行政庁の処分ではないと考えるべき根拠はないのであって、取消訴訟の対象となるか否かは、当該行為が行為の直接の相手方にどのような権限を与える効果を有するのか、あるいは当該行為が国民の個別的な権利義務に直接の影響を及ぼすか否かという観点から行われるものである。本件認可は、被告が引用する最高裁昭和五三年一二月八日第二小法廷判決における成田新幹線の工事実施計画についての被告の日本鉄道建設公団に対する認可とは異なり、これによって直ちに進入表面等の投影面内の区域の土地の用益制限を発生させるものであるから、右の最高裁判決が本件認可に妥当しないことは明らかである。

3  被告は、本件認可に際し、本件実施計画が被告指示の本件基本計画に適合しているか否かを審査するだけでなく、航空法三九条一項二号の認可要件を審査しなければならないとされているのであって(同法五五条の三第二項)このような同法の規定のあり方は、本件認可が、一定の対外的、確定的な法的効果を伴うことを考慮していると理解するのが最も合理的なのであって、被告の主張は航空法の規定の趣旨にも反するものである。

4  本件認可は公団に本件空港の設置の権限を付与する行政処分であり、しかも、本件空港の設置に関しては本件認可が被告が行政庁として行う最終の行政行為である。このような本件認可の法的性質からすれば、これを取消訴訟の対象となる行政庁の処分であると考えなければならない。

本件空港の設置については、航空審議会に対する諮問、同審議会の答申、新東京国際空港公団法の制定、本件空港の位置を定める政令の制定、公団の設立、基本計画の作成、公団による本件申請、公聴会の開催等の様々の行政手続の積重ねがあるが、これらはいずれも本件空港の設置のための先行行為であって、それ自体が対外的かつ確定的な法的効果を発生させるものではない。しかし、本件認可は、これら行政過程のうえに立ち、本件空港設置計画を具体的に完結させる最終段階の処分であって、これにより、空港敷地内及び周辺に居住する住民の所有権、人格権、環境権等の権利に対する侵害の有無、程度が決定されることになるのである。しかも、本件認可によって、本件空港設置事業が土地収用法による土地収用の可能な事業となり、空港敷地内の土地は右事業以外の用途に用いられることはなくなるのであって、その土地所有権又は利用権に直接的かつ重大な影響を及ぼすものである。

右のような観点からすれば、本件認可は、公団に対し本件空港設置工事の実施権限を付与するものであり、しかも、進入表面等の規制による後記の公用制限を伴うものでもあって、国民の個別的権利義務に直接の影響を及ぼすものであるから、取消訴訟の対象となる行政処分であることは疑う余地がない。

二  進入表面等の告示及び本件指定の行政処分性

本件認可は必然的に進入表面等の範囲を定めるものであるところ、進入表面等の告示(航空法四〇条)は、法律や条例の制定などとは異なり、直ちに一定区域内の土地につき用益や建築行為を制限するものである。したがって、右の告示は、それ自体が個人の権利を制限する行政処分である。

土地所有権は、民法上、地表、地下及び地上に及ぶ物権であり、その空中の利用機能に限っても「区分地上権」を設定して取引ができるものであるが、進入表面等の告示後は、その投影面内にある土地の所有者又は利用権者の空中利用権は当然に制限され、その制限違反には罰則が科せられ(同法一五〇条)、飛行場設置者は、進入表面等の上に出る障害物の除去を求める権原が付与されるのである。同法四九条によるこのような空中利用権の制限は、一定の公共の目的のために行われる所有権の侵害、すなわち、個別的な土地収用と何ら変わりはないのである。進入表面等の告示は、まさに、右侵害を受ける者を名宛人とした個別的、具体的な行政処分である。延長進入表面等の指定も、その投影面内にある土地の所有権や利用権の中の空中利用権能を制限し侵害する性質を有する行政処分たることは、進入表面等におけると全く同様である。

例えば、公団は、昭和五二年五月、進入区域内の土地の上に本件空港設置反対運動の一環として建造された高さ62.26平方メートルの岩山大鉄塔(千葉県山武郡芝山町岩山字押堀一八九八番九所在)及び高さ30.82メートルの岩山小鉄塔(同町字金垣一八八二番の二)を仮処分の執行により除去したが、民法上適法に建造できる右鉄塔の除去が法的に強制されたのは、進入表面等の告示によって直接に生じる土地の用益制限(右大鉄塔につき15.15メートルの、右小鉄塔につき20.79メートルの建築物の高さ制限)の直接の結果にほかならない。また、警察は、同様に反対運動の一環として建造された鉄筋コンクリート三階建の横堀要塞(同町香山新田字横山一一五番一所在)の屋上の鉄塔を航空法四九条一項違反の被疑事実で除去押収し、原告北原鉱治、同石井武及び同秋葉哲を逮捕したが、これも進入表面等の告示による土地の用益制限の直接の結果である。

三  原告適格

1  当該行政処分によって生存権的利益、生命、自由、財産等に著しい侵害を受ける者は、取消訴訟の原告たりうる者に該当するということができる。本件認可は、公団に対し本件空港設置事業の権限を付与したため、空港敷地内に農地や建物を有する者は、その所有不動産が土地収用法よる強制収用の対象とされ、農地が奪われて生活基盤を失うことになったし、空港周辺住民は、大型ジェット機の発着による深刻な騒音被害、さらには、ジェット機の排気ガス・振動、航空機からの落下物や墜落の危険という生活環境に対する深刻な被害を受けることになった。また、本件認可に伴う進入表面等の告示や本件指定が行われたため、進入表面等又は延長進入表面等の投影面内にある土地の所有権や利用権を有する者は、空中利用権も侵害されることになった。本件処分及び進入表面等の告示の取消しを求める取消訴訟において原告適格を有する「法律上の利益を有する者」とは、右のような土地及び生活環境に対する直接の侵害を確実に受ける者、進入表面等や延長進入表面等の定めにより財産権の侵害を受ける者である。

2  空港敷地内の土地所有者及び利用権者並びに進入表面等及び延長進入表面等の投影面内にある土地の所有者及び利用権者などが本件訴訟の原告適格を有することは、本件認可や本件指定を行う際には公聴会を開催して利害関係人に意見を述べる機会を与えなければならないという航空法の規定からも明らかである。

すなわち、本件認可については航空法五五条の三第二項において、本件指定については同法五六条の三第二項において、いずれも公聴会の必要的開催についての同法三九条二項の規定が準用されており、同法施行規則八〇条二号は、公聴会で意見を述べる機会が保障されている「利害関係を有する者」の中に「飛行場の区域、進入区域又は転移表面、水平表面、延長進入表面、円錐表面若しくは外側水平表面の投影面内の区域の土地又は建物について所有権、地上権、永小作権、地役権、採石権、質権、抵当権、使用賃借又は賃貸借による権利その他土地又は賃借に関する権利を有する者」が含まれることを明示的に規定しているのである。右の者は、飛行場の設置や延長進入表面等の指定によって私法上の権利の制限を受けるものであるがゆえに、意見を述べる機会が保障される地位にあると考えられているのである。

本件処分及び進入表面等の告示により個別的に法律上の利益が害される右の範囲の者は、本件処分及び進入表面等の告示の取消しを求める取消訴訟においても原告適格を有するというべきである。

3  なお、被告主張の原告らが本訴提起後に死亡したり転居したことは認めるが、死亡した原告らについては、適法な訴訟承継が認められるというべきである。

第五  請求原因に対する被告の認否

請求原因一及び二の各事実は認める。

第六  抗弁(本件処分の適法性)

一  本件認可の適法性

公団が本件空港を設置しようとする場合には、本件実施計画が被告指示の本件基本計画に合致しなければならないという制約があるものの(航空法五五条の三第一項)、一般の飛行場の設置について必要である被告の許可(同法三八条二項)ではなく、被告の認可を要するものとされており(同法五五条の三第一項)、被告は、本件申請の適否を判断するために、同法五五条の三第二項において準用される同法三九条一項一号、二号及び五号の要件の審査を行うべきものとされている。本件実施計画は本件基本計画に合致していたうえ、以下のとおり、本件実施計画は右各要件を具備していたものであるから、被告が本件認可を行ったことは適法である。

1  航空法五五条の三第二項において準用する同法三九条一項一号適合性(本件空港の構造等の設置の計画が運輸省令で定める基準に適合するものであること)

右の運輸省令で定める基準のうち本件空港のような陸上飛行場に適用されるものは、航空法施行規則七九条一項一号ないし五号、五号の二及び九号に定められている。

(一) 同規則七九条一項一号適合性

本件空港の進入表面等の範囲は、本件告示のとおりとなるところ、本件認可当時、本件空港の進入表面等の上に出る高さの物件はなく、同空港の周辺で航空機の離陸又は着陸に支障があると認められる障害物はないと認められた。

(二) 同規則七九条一項二号適合性

本件認可当時、本件空港の建設予定地の周辺には、羽田空港並びに百里、下総及び霞ケ浦の各飛行場があったが、これら飛行場等は、いずれも建設予定地から三〇キロメートル以上も離れていたので、本件空港の滞空旋回圏(飛行場に着陸しようとする航空機の滞空旋回のために安全最小限と認められる飛行場上空の所定の空域)が既存の飛行場に設置された滞空旋回圏と重ならないものであると認められた。

(三) 同規則七九条一項三号適合性

本件申請書及び添付図面によれば、本件空港の三本の滑走路のうち、A及びCの各滑走路は長さが二五五〇メートル以上であるからその着陸帯の等級はいずれもAであり、B滑走路は長さが二一五〇メートル以上二五五〇メートル未満の範囲内にあるからその着陸帯の等級はBであり、各滑走路、着陸帯及び誘導路の形状並びに誘導路と固定障害物との間隔は次のとおりであることが認められ、いずれも同規則七九条一項三号所定の規格に適合しているものであると認められた。

(1) 滑走路

幅(メートル) 最大縦断勾配 最大横断勾配

六〇 〇パーセント 0.8パーセント

(2) 着陸帯

長さ(メートル) 幅(メートル)最大縦断勾配 最大横断勾配

A 四一二〇 三〇〇 一パーセント 2.5パーセント

B 二六二〇 三〇〇 一パーセント 2.5パーセント

C 三三二〇 三〇〇 〇パーセント 3.5パーセント

(3) 誘導路

幅(メートル) 最大縦断勾配 最大横断勾配

三〇 0.75パーセント 1.0パーセント

(4) 誘導路と固定障害物との間隔

本件申請書及び添付図面によれば、最も近接する箇所は、着陸帯Bに係る誘導路縁と本件空港周辺の民有地等との間であり、その間の距離が六五メートルであるので、各着陸帯に係る誘導路と固定障害物との間隔はいずれも三九メートル以上あることが認められた。

(四) 同規則七九条一項四号適合性

本件申請書及び添付図面によれば、本件空港のA及びCの各滑走路に離着陸する航空機は、主としてボーイング七四七型機であり、同滑走路は単車輪荷重四五トンの強度を有すると認められ、同空港のB滑走路に離着陸する航空機は、主としてボーイング七二七型機であり、同滑走路は単車輪荷重二五トンの強度を有すると認められる等、各滑走路が就航予定の航空機の運航に十分耐え得るものと認められた。

(五) 同規則七九条一項五号適合性

本件申請書及び添付図面によれば、本件空港の各滑走路と誘導路との間の距離は一五五メートル存在し、これらの上を航行する航空機の航行の安全のために相互間に十分な距離を確保しており、滑走路と誘導路の接続点における適当な角度及び形状を有するものと認められた。

(六) 同規則七九条一項五号の二適合性

本件申請書及び添付図面によれば、本件空港の各滑走路及び誘導路の両側等には、幅7.5メートル、舗装厚六〇センチメートル等の適当な幅及び強度を有するショルダーが設けられることが認められた。

(七) 同規則七九条一項九号適合性

本件申請書及び添付図面によれば、飛行場標識施設は、同規則七九条一項九号所定のもの、すなわち、滑走路標識についての指示標識、滑走路中心線標識、滑走路末端標識、滑走路中央標識、接地帯標識及び滑走路縁標識、過走帯標識、誘導路標識についての誘導路中心線標識及び停止位置標識並びに風向指示器が設けられることが認められた。

2  航空法五五条の三第二項において準用する同法三九条一項二号適合性(本件空港の設置によって、他人の利益を著しく害することとならないものであること)

本件空港は、農業適地である千葉県北総台地に設置され、農地に対する補償措置等の地元対策が重要視されていたものであるが、被告は、本件認可に先立ち、航空法五五条の三第二項において準用されている同法三九条二項に基づく公聴会を開催して利害関係人から土地の補償、代替地、騒音対策等に関する意見を聴取した。政府は、それ以前の昭和四一年七月四日既に、本件空港の位置決定に伴う施策についての閣議決定をしており、本件認可当時、この閣議決定を基本として、適正な土地の補償、代替地の提供、騒音対策、職業転換対策等の地元対策、道路等の公共施設の整備に関する諸対策がとられることになっていたため、農民の生活や農業を壊廃することなく本件空港を設置することが可能であると認められた。

3  航空法五五条の三第二項において準用する同法三九条一項五号適合性(公団が本件空港敷地について所有権その他の使用の権原を有するか、又はこれを確実に取得することができると認められること)

本件空港の飛行場の敷地一〇六五ヘクタールの内訳は、国有地(下総御料牧場)二四三ヘクタール、公有地一五二ヘクタール及び民有地六七〇ヘクタールであった。国有地については公団が代替牧場を建設しこれを交換することになっていたし、公有地については関係地方公共団体から公団に譲渡されることが確実な旨の文書等があった。また、民有地については、本件認可当時、所有者の約八割が同空港の設置に賛成(補償条件について合意ができれば本件空港の設置に賛成するという立場をとるいわゆる「条件賛成」である)であり、このような条件賛成派の勢力の増大が予想され、その大部分が任意買収できる見通しであった。任意買収ができない部分についても、本件空港設置事業は土地収用法の適用対象事業であり、かつ、同法を適用するために必要な要件を満たすものと認められたから、必要に応じ同法による土地収用の手段が可能であった。したがって、本件空港敷地については、公団においてその所有権を取得できることが確実であると認められた。

二  延長進入表面等の指定の法適合性

延長進入表面等は、大型化、高速化する航空機の離着陸の安全を確保するためのものであり、第一種空港及び政令で指定する第二種空港について指定ができるとされている(航空法五六条の二)。本件空港は第一種空港であり(空港整備法二条)、わが国の主要国際空港として供用されることが予定されていたものであるから、世界の各種大型、高速の航空機の就航が予測された。そこで、被告は、本件空港付近の土地所有者その他の利害関係を有する者の利益を害することとならないよう配慮して、本件空港について延長進入表面等を指定し、航空法五六条の三第二項において準用する同法三八条三項の規定に基づき、延長進入表面等の範囲を告示した。また、被告は、同法五六条の三第二項で準用されている同法三九条二項の規定に基づき、昭和四二年一月一〇日公聴会を開催し、同空港周辺の土地所有者、関係地方公共団体その他利害関係を有する者の意見を聴取したが、特に意見がなかったのでそれらの権利を著しく害することがないと認めた。

三  以上のとおり、本件実施計画は、いずれも航空法所定の要件を具備し、かつ、被告指示の本件基本計画にも合致しており、これを適法に認可することができたものであり、本件指定は同法に照らし必要かつ妥当なものであり、本件認可及び本件指定は同法所定の公聴会を経て手続的にも適法に行われたものであって、いずれにもこれを取り消されなければならない違法はない。

第七  本件認可の違法性に関する原告らの主張

一  本件空港の位置決定手続における違法

1  本件実施計画においては本件空港の位置が千葉県成田市とされているが、その位置は公団によって定められたのではなく、本件申請以前の段階で内閣によって定められていたものであり、本件認可は、空港の位置に関しては内閣による位置の決定に従い、これを形式的に追認したに過ぎないものである。そして、右の内閣による決定には、次のとおりの手続的な違法があるから、本件認可も手続的に違法であって取消しを免れない。

2  航空審議会は、昭和三八年一二月、被告の諮問に応え、本件空港の候補地として千葉県富里村付近が最適であること、飛行場の敷地面積はおよそ二三〇〇ヘクタールが必要となることを答申した。内閣は、昭和四〇年一一月に至り、新東京国際空港関係閣僚懇談会で右富里地区に新空港を設置することを内定したが、この内定に対し地元千葉県側の反発は極めて強く、友納武人千葉県知事も県議会において、県としては空港問題については事態を静観し政府の方針に積極的に協力しない態度をとることを明らかにした。そこで、友納知事と若狭得治運輸事務次官の極秘の交渉や友納知事と佐藤栄作首相の会談が行われ、結局、富里地区に新空港を設置するのではなく、三里塚の御料牧場とその周辺の県有地を中心とする約一〇〇〇ヘクタールの敷地に新空港を設置する旨が合意され、国と千葉県の行政レベルでは、本件空港を三里塚に建設することで一致した。そして、内閣は、昭和四一年七月四日の閣議で、本件空港を千葉県成田市三里塚町を中心とする地区に建設すること、その敷地面積は約一〇六〇ヘクタールとすることが決定され、翌五日、「新東京国際空港の位置を定める政令」が公布、施行された。この政令により、本件空港を成田市三里塚町を中心とする地区に設置することは、変更の余地のないものとして確定された。内陸空港の設置は、広大な土地を必要とし、空港供用開始後にはその周辺の広範囲にわたる地域へ航空機騒音被害を発生させ、地元住民の生活を一変させるものであり、当該空港が公共の用に供される空港である場合には、土地収用法による強制収用や航空法四九条による私権の制限が行われるものであるから、公共用の内陸空港として新空港の位置を定める場合には、民主的で人権保障的な行政手続を行うため、広く利害関係人から意見を聴き、地元住民との利害調整を話し合う手続が尽くされるべきことは当然の要請である。しかし、内閣によって本件空港の位置が決定されるまでの間、地元住民の意向を聴く公聴会などは一切開催されなかった。

3  ところで、航空法三八条一項は、被告及び公団以外の者が飛行場を設置しようとするときは、被告の許可を受けなければならないものとし、同法三九条二項は、その許可に係る審査をする場合には公聴会を開いて利害関係を有する者に意見を述べる機会を与えなければならないものとしている。本件空港の設置については、本件空港の位置が確定した昭和四一年七月四日の時点では未だ公団は設立されておらず、その設立は、新東京国際空港公団法施行の日よりも後になることが法令上明らかであり、実際にも、その設立は同年七月三〇日であった。したがって、本件空港の位置を決定する際には、空港設置者は内閣以外に存在していなかったというべきであるから、内閣は、航空法三八条一項の規定に従い、本件空港の位置を記載した申請書を被告に提出し、位置決定について被告の許可を得る必要があった。ところが、内閣は、右のような許可申請行為を行なわず、公聴会も開催しなかった。したがって、本件空港の位置決定には、航空法所定の手続を経ない違法があり、しかも、この違法は、民主的行政手続の基本原則を無視した極めて重大なものであるから、その後に行われた本件認可(飛行場の位置については内閣の決定を形式的に追認しただけである)をも違法とするものというべきである。

二  航空法三九条一項二号違反

1  農民の生存権の著しい侵害

(一) 広大な土地の収奪

本件空港敷地として土地収用の対象になる土地は一〇六五ヘクタールでその中に民家は三二五戸含まれている。これに航空保安施設用地を加えると、本件空港に直接必要な土地は一一七八ヘクタールとなって、その中に民家は三八六戸含まれることになる。更に、航空機騒音防止法九条一項及び九条の二第一項によって被告が指定している第二種及び第三種騒音地区は、その指定当初から移転地区とされ、その範囲は指定当時一五〇〇ヘクタール(その中に含まれる民家は五五〇戸)に及ぶものであった。更に、これに昭和五三年制定の特定空港周辺騒音対策特別措置法四条によって「航空機騒音防止特別地区」に指定され住宅の新築・増改築が禁止されることが予測され、したがって事実上、移転が強制されることになる地区は四三〇〇ヘクタール(その中に含まれる民家は三四〇〇戸)に及ぶものと考えられる。すなわち、本件空港は、このような広大な土地及びそこ含まれる民家を犠牲にして設置されるものである。しかも、その広大な土地の多くは専業農家が所有し、これを長い年月をかけて開拓し人手を加えて農業適地に改良した農地であり、地元農民は、それら農地のうえに農村共同体を形成し長年にわたり平穏な日常生活を送っていたものである。農民と農地とは一体不可分の関係にあり、農民にとって農地を所有する権利は、農民の生存権を保障する基本的人権すなわち生存権的財産権である。このような生存権的財産権を土地収用法による土地収用の対象とすることは、基本的人権を否定するものであって憲法二五条、二九条に違反し、航空法三九条一項二号に違反するものということができる。

また、昭和三九年に農林省から第二次農業改良事業の指定を受けた千葉県成田市遠山地区を中心とする地区においては、千葉県主導のもとに大規模協業養蚕団地造成計画が進められ、昭和四〇年三月には広大な土地に桑の植付けが完了し、多数の農民が生活をかけて養蚕事業という新たな事業に乗り出したのであった。しかし、その矢先、右地区付近が本件空港敷地となることが内定するやいなや昭和四一年六月には、右事業に参加していた農民らに何の予告も説明もなく、右事業が急遽中止となるという事態となったのである。このように本件空港設置事業は、農民の人権を無視しその生活を破壊するものである。

(二) 代替措置の著しい不足

被告及び公団は、本件認可の時点においては、本件認可による農地侵害、農業破壊、移転農民問題に関する適切な補償、代替地の提供等の対策を有してはいなかった。すなわち、政府が昭和四一年七月四日に閣議決定した「本件空港の位置決定に伴う地元対策」というものは、「本件空港建設予定地の土地取得、物件移転等の補償については、土地代及び家屋等の物件の移転費、移転に伴う離作料、営業補償等の通常生ずる損失について個別に算定する建前のもとに、千葉県知事の意向を十分尊重して決定する。営農を継続する意思のある農民に対しては、国は県の協力を得て、移転先等につき申出者の希望を尊重して所要の代替地を用意し、営農が円滑に行えるよう資金及び技術等の援助をする」などという極めて抽象的なものでしかなかった。公団は、農地法による制限もあって農民への代替地を取得できなかったため、その取得と農民への提供は千葉県が行うことになったところ、千葉県が昭和四一年八月に決定した地元対策のうち、移転農家に対する代替地提供は、空港敷地内の二七二戸のみを対象とするもので、深刻な騒音被害を受ける周辺農民に対する代替地の提供は予定されず、しかも、空港敷地内の農民の移転対策のために当時千葉県が確保することのできた代替地でさえ一七〇ヘクタール程度に過ぎず、必要とされた四五三ヘクタールの代替地が確保されていたわけでもなかったのである(昭和五五年度までにおいても約四〇〇ヘクタールの代替地が用意されたにとどまる)。

(三) 右のとおり、被告及び公団は、一方では土地収用法による土地収用を準備しながら、十分ではない営農対策を強引に押し付けようとしたものであって、到底誠意のある地元対策を準備していたとはいえないものであったから、本件実施計画が他人の利益を著しく害するものであって、航空法三九条一項二号に適合しないことが明らかであった。

2  騒音被害による生活環境に対する重大な侵害

(一) 騒音被害の実態

(1) 本件空港を使用する航空機は、国際線の長距離便で、殆どがボーイング七四七型のジャンボジェット機であり、運行時間も早朝六時から深夜二三時にまで及ぶ。飛行便数も開港当初(昭和五三年五月に暫定開港)の一日一五四便から平成四年三月以降一日三六〇便に増加している。千葉県環境部は、毎年夏と冬に一週間ずつ航空機騒音の測定調査を行っているが、昭和六三年度における調査結果をみると、騒音の曝露量は、開港以来昭和六三年までほとんど変化がなく甚大なものとなっている。この調査によれば、本件空港周辺の南北三五キロメートル東西六キロメートルの約二万一〇〇〇ヘクタールの土地内の五七か所の調査地点における最高騒音値が、一〇〇ホン以上の調査地点は三か所、九五ないし九九ホンの調査地点が七か所、九〇ないし九四ホンの調査地点が一四か所、八五ないし八九ホンの調査地点が二一か所、八〇ないし八四ホンの調査地点が九か所、七五ないし七九ホンの調査地点が三か所という結果となっており、七四ホン以下の調査地点はない。このことを同一期間中における航空機騒音の国際的基準WECPNL(音の質、大きさ、持続時間、回数、時間帯を総合的に組み合わせた騒音を表す単位)によってみると、WECPNL八五を超える地点が三か所、WECPNL八〇ないし八四の地点が七か所、WECPNL七五ないし七九の地点が九か所、WECPNL七〇ないし七四の地点が一七か所、WECPNL六五ないし六九の地点が一四か所、WECPNL六四以下の地点は七か所だけである。

環境庁は、昭和四八年一二月二七日、航空機騒音環境基準を告示し、本件空港における航空機騒音の環境基準を住居地域の屋外でWECPNL七〇とし、一〇年後に達成するとしていた。この基準は不当に高いものであるが、それさえ、昭和六三年においても、右五七か所の調査地点のうち三六か所が右基準を超えた航空機騒音に曝され、達成されていないのである。

(2) 原告らが平成元年九月ないし一二月の間に行った本件空港周辺住民七四〇世帯に対する面接調査の結果によれば、航空機騒音による被害の実態は次のとおりである。

ア 聴取被害

屋内の肉声の会話においては、WECPNL七〇ないし七四で57.1パーセントの人が、WECPNL八五以上では77.9パーセントの人が大声を出したり会話を中断したりしなければならないという支障を受け、電話の会話においては、WECPNL七〇ないし七四で53.5パーセントの人が、WECPNL八五以上では85.4パーセントの人が大声を出したり中断したりしなければならないという支障を受けている。

テレビについては、WECPNL七〇ないし七四で66.1パーセントの人が、WECPNL八五以上では79.2パーセントの人が、音声を大きくしないと聞こえない、聞き取れないという支障を受けている。

田畑での会話においては、WECPNL七〇ないし七四で65.2パーセントの人が、WECPNL八五以上では86.8パーセントの人が大声になったり会話を中断したりしなければならないという支障を受けている。

イ 読書・思考への影響

読書・思考については、WECPNL七〇ないし七四で17.9パーセントの人が、WECPNL八五以上では34.4パーセントの人が、読書や思考に差支えがあるという被害を受けている。

ウ 睡眠への影響

昼寝については、WECPNL七〇ないし七四で15.2パーセントの人が、WECPNL八五以上では29.2パーセントの人が、突然目を覚ます、昼寝ができないなどという被害を受けている。

夜の睡眠への影響については、WECPNL七〇ないし七四で41.9パーセントの人が、WECPNL八五以上では五〇パーセントの人が、寝付きが悪い、夜中に目が覚める、朝早く目が覚めるという被害を受けている。

エ 心身への影響等

身体への影響については、全体で約一〇パーセントの人が、「耳鳴りがする」「耳が痛い」「頭痛がする」「食欲がない」「鳥肌が立つ」「胃の調子が悪い」「疲れ易い」「胸がどきどきする」のいずれかの被害を訴えている。

精神的影響については、「気分がいらいらする」「不愉快になる」「うっとおしい」「びっくりする」「落着きがない」「しゃくにさわる」「頭にくる」「集中できない」のいずれかの被害を訴える人が、WECPNL七〇ないし七四で38.4パーセントあり、WECPNL八五以上では50.5パーセントもある。

また、WECPNL七〇以上では、乳児の三〇パーセント、幼児の二〇パーセントが影響を受けていると考えられる。暮らしの中で航空機騒音が迷惑でないと答える人は、WECPNL七〇以上で数パーセントしかいない。

子供の勉強への影響については、「非常に邪魔になる」「かなり邪魔になる」「多少邪魔になる」と訴える割合は、WECPNL七〇ないし七四で16.3パーセントあり、WECPNL八五以上では40.5パーセントもある。

(二) 騒音被害対策の欠如

本件基本計画は、本件空港を大型ジェット機が二四時間態勢で頻繁に離着陸する内陸空港とするものとしているのに、被告及び公団は、事前に航空機騒音を予測し対策を検討するという環境アセスメントを全く行っておらず、本件認可の段階において騒音に対する具体的な対策を有していなかった。政府は、昭和四一年六月の段階では、滑走路先端から二〇〇〇メートル、滑走路を中心として片側六〇〇メートルの範囲を騒音地区としていたが、具体的な措置が講じられることはなかった。すなわち、被告のいう「地元対策」は、航空機騒音の被害を十分念頭に置いたものではなかったのである。

本件認可から一一年が経過した昭和五三年の本件空港開港以降、民家防音対策が始まるが、農村の民家は開口部が大きく、また、農作業のため田畑で過す時間が多いという生活様式が一般的であるため、抜本的な騒音被害の解決策となっていない。

(三) 右のように、本件認可は、本件空港の設置が、周辺住民に対する深刻な航空機騒音被害を撒き散らしそれらの者の生活利益を著しく害することを看過して行われたものであって、航空法三九条一項に違反するものである。

三  航空法三九条一項五号違反

1  本件空港を設置するについては、地元の設置反対運動が存在することによって、公団が空港敷地の所有権を確実に取得することは不可能だったのであり、この点を看過して行われた本件認可は、航空法三九条一項五号に違反している。

2  本件空港の位置が富里地区に内定していたころから、大規模内陸空港に対する地元の反対運動は盛んであったが、本件認可のころには、本件空港の設置に反対する三里塚地区の住民運動は、富里空港反対運動以上の勢いで活発に行われていた。政府が昭和四一年七月四日の閣議決定で本件空港の位置を三里塚地区としたその当日、一〇〇〇人以上の農民が成田市役所を取り囲み、その中で成田市議会は空港設置反対決議をした。千葉県議会は、同日やはり一〇〇〇人以上が包囲する中、自由民主党所属の議員だけで「空港建設促進」を決議したという状況であった。その後は、成田市天神峰に反対運動の現地闘争本部が設立され、次々と団結小屋が建てられていき、芝山町においては、空港設立反対決議を白紙撤回した町議会議員一六名のリコール運動も展開されていた。このような状況下においては、公団が地元住民の協力を得て本件空港敷地内の民有地の所有権を取得するのは著しく困難であると判断することができたはずである。そのため、公団は、本件申請の際に被告に提出すべき航空法施行規則七六条二項二の二所定の証明書のうち、民有地の取得の確実さを示す書類としては、公団自身が作成した報告書を提出したのみであって、このような書類は右規則所定の証明書となり得ないものである。右規則所定の証明書類とは、土地所有者の売渡同意書や事業設置同意書をいうものであり、一般には取得予定地の九五パーセントの同意書の添付があって初めて事業に必要な土地の取得が確実であると判断できるとされている。本件認可は、この点の審査を適法に行っていないといわざるをえない。現在でも本件空港の第二期工事(B及びCの各滑走路及びこれに対応する諸施設の工事)の区域において農業を営む原告らが存在することが、本件認可の違法性を端的に物語っている。

3  公団は、本件空港敷地について土地収用法の事業認定が行われることが確実であり、強制的な土地取得が可能であったから、敷地の土地所有権の取得が確実であった旨の書類を提出しているが、これも右規則所定の証明書類たりえない。本件認可の当時には、土地収用法につき何らの手続も行われていなかったし、土地収用法は航空法とは全く異なる法律であり、事業認定も建設大臣の判断によって行われるのであるから、土地収用法による事業認定を根拠として航空法三九条一項五号の要件があるとすることはできない。

実際にも、公団は、平成五年六月一六日、本件空港の第二期工事施工区域の未買収土地につき、千葉県収用委員会に申請していた収用裁決申請を取り下げたため、右区域に関する事業認定は失効しており、右未買収土地の取得は、空港絶対反対の立場を堅持する農民の抵抗により不可能となった。このように空港敷地の取得すら不可能なことが確実になった以上、本件実施計画は、同法三九条一項五号の要件を確定的に喪失し、本件認可が違法であることが確実となった。

四  航空法五五条の三第一項違反及び同法三九条一項一号及び五号違反(本件基本計画への不適合及び航空保安施設の不備)

1  空港の施設には、航空機の離着陸に直接必要な滑走路等の施設の外に航空機の離着陸の安全を確保するために必要な航空保安施設が必要不可欠である。航空法による規制を受ける航空保安施設は「電波、灯光、色彩又は形象により航空機の航行を援助するための施設で、運輸省令で定めるもの」とされており(同法二条四項)、同法施行規則一条は、右航空保安施設を、航空保安無線施設(電波により航空機の航行を援助するための施設)、航空灯火(灯光により航空機の航行を援助するための施設)、昼間障害標識(昼間において航行する航空機に対し、色彩又は形象により航行の障害となる物件の存在を認識させるための施設)に分類される。

2  本件基本計画は、航空保安無線施設として、NDB(空港周辺に位置標識用に設置される無指向性無線標識施設)、VOR(方位指示等のために空港周辺に設置される超短波全方向式無線標識施設)その他必要と認められる航空保安無線施設を掲げているが、本件空港は、わが国の主要国際空港として長期にわたっての航空需要に対応し、気象条件にかかわらず可能な限り大型航空機を安全に離着陸させ、滑走路を二四時間最大限に活用することが求められているため、その滑走路は、ILS(最終進入用の計器着陸用施設)並びにこれに対応する進入灯及び無線施設が設置された精密進入用の計器滑走路でなければならない。本件実施計画は、本件基本計画を受け、本件空港の滑走路をカテゴリー二精密進入(進入限界高度が三〇メートル以上であり、かつ、滑走路視距離四〇〇メートル以上である場合における精密進入をいう。航空法施行規則一一七条一号)用の計器滑走路とし、これに対応するILS及び進入灯の設置を予定していた。ILSの機能図は別紙第6図のとおりであり、滑走路端から外側三五〇メートルの地点にカテゴリー二の進入限界(高度三〇メートル)を知らせるインナーマーカーを、滑走路端から外側一〇五〇メートルの地点にカテゴリー一精密進入(進入限界高度が六〇メートル以上であり、かつ、滑走路視距離が八〇〇メートル以上である場合における精密進入をいう。同条同号)の進入限界を知らせるミドルマーカーが設置されるはずであった。このようなILSを設置するためには、航空保安施設用地として別紙第7図の点線で囲まれた部分が必要となる。

3  ところが、本件実施計画において空港敷地として申請がされ土地収用法による事業認定を受けた土地の範囲は、同図面の実線で囲まれた部分のみであって、航空保安施設用地は任意買収によって取得することになっており、結果的にその任意買収が完了していないため、用地取得ができていない。にもかかわらず、第一期工事(A滑走路及びこれに対応する諸施設の工事)を終えて本件空港が開港されることになったため、A滑走路南側においては、空港敷地の境界付近(A滑走路南端から約三〇〇メートル外側)にILSのミドルマーカーが設置されることになった。そのため、ILSのインナーマーカーの設置は不可能となったため(設置場所が滑走路の中になる)、A滑走路は計画されたカテゴリー二ではなくカテゴリー一に区分される精密進入用の計器滑走路の機能しかないことになった。しかも、ILSのミドルマーカーの位置を右のとおりに空港敷地境界付近にせざるをえなかったため、このミドルマーカーに対応する進入灯などの航空灯火(滑走路の外側九〇〇メートルの範囲に設置されるはずであった)の大部分は、A滑走路の内側七五〇メートルに別紙第8図のとおり移動して埋め込まれ設置されたのである。この結果、A滑走路は、本来は四〇〇〇メートルの長さがあるはずであったのに、その内側七五〇メートルの地点が機能上の末端となり、三二五〇メートルの長さでしか使用されていないのである。今後は航空保安施設用地が確保されていないB滑走路にも同様の問題が生じる可能性が強く、そうなった場合には、B滑走路は物理的な長さは二五〇〇メートルであったとしても二〇〇〇メートル程度の機能しか持たず、国際線用の航空機は離着陸が不可能になり、建設する意味がないことになってしまう。

4  右のとおり、本件実施計画が滑走路の外側に接続して必要となる航空保安施設用地を空港敷地に含めていなかったため、本件空港は、本件基本計画に沿った航空保安無線施設が設置されておらず、本件基本計画に沿った長さの滑走路も有しない状態となっている。公団は、航空法五五条の三第一項により、本件基本計画に従った本件空港の設置をする義務があり、この義務を確実に履行できるような本件実施計画を作成し本件申請をしなければならなかったのに、誤って航空保安施設用地を空港敷地に含めなかった。本件認可は、この点を看過して行われた違法なものである。

五  航空法三九条一項一号違反(B滑走路の距離不足)

本件実施計画における本件空港のB滑走路は、二五〇〇メートルと極めて短く、三〇〇〇メートル以上の滑走路が必要なジャンボ機の離着陸は不可能であり、国際便としては韓国便の一部を除いてほとんど使用できないものである。このような滑走路を設置することは、「飛行場の設置の位置、構造等の計画が運輸省令で定める基準に適合するものであること」という航空法三九条一項一号の認可要件に違反しており、本件認可は違法である。

六  航空法三九条一項一号違反(安全な空域設定の不存在)

1  本件空港を千葉県成田市に設けるものとされた理由は、結局は空域に問題がないということにあった。関東空域は、その西部において、入間、横田、立川及び厚木の四つの米軍飛行場のために一元的にレーダー進入管制が行われ、その東部において航空自衛隊の百里飛行場のために空域が設定されて、これらを除いた部分が羽田空港のための空域とされていた。本件認可当時予定されていた当初案(別紙第9図のとおり)では、この羽田空域を二分して東側を本件空港の空域に、西側を羽田空港の空域にするというものであった。この当初案には、平と土浦を結ぶ国際線用の飛行経路について一本のコースしか設定されておらず、この単線コースを風向きによって出発便と到着便で使い分けるという問題点があったほか、御宿VORを本件空港に明け渡す計画であったため、羽田空港の待機空域がなくなるという問題があった。

2  その後、本件空港の開港が遅れ、無線施設の変更、運輸省と防衛庁の協議などが行われた。本件空港は、昭和五三年五月二〇日、A滑走路に関する部分が暫定的に開港されたが、その開港に際して設定された空域は別紙第10図のとおりであって、本件空港が管制する成田空域、羽田空港が管制する羽田空域、百里基地が管制する百里空域が高度別に複雑に入り組んだものである。すなわち、同図の空域断面図にみられる成田空域と百里空域は高度別に同図の区分表のとおり入り組んでおり、同図の成田空域、羽田空域及び百里空域は、同図のとおり高度によって複雑に管轄が区分される複雑空域となっているのである。このため、本件空港によって管制されて離着陸する飛行機は、高度によって複雑に管轄が設定された成田空域の中を飛行しなければならないという制約を受けるため、非常に困難な飛行を余儀なくされることになる。現在、本件空港A滑走路を北に離陸する出発方式としては「成田リバーサルⅡ」という方式があるが、これは、離陸直後に百里空域の高度一八〇〇フィートの部分を避けて二八〇〇フィートまで急上昇し、右旋回をしながら羽田空域の高度八〇〇〇フィートの部分を避けて七〇〇〇フィート以下の高さで飛行するという曲芸的な飛行である。また、本件空港を北に離陸して右旋回する航空機は常に百里空域の上空一〇〇〇フィート以上の高度を段階的に上昇しなければならず、軍用機の飛ぶ空域への侵犯の危険を伴っている。

3  右のように、本件空港には、本件認可当時も現在も、十分な空域を確保する計画がなかったのであり、航空機の安全航行という空港の大前提を欠いている。すなわち、本件実施計画による本件空港は、滞空旋回圏が既存の飛行場に設定された滞空旋回圏と重ならないという航空法施行規則七九条一項二号の要件を満たしておらず、同法三九条一項一号の要件を欠くものであって、この点を看過して行われた本件認可は違法である。

第八  原告の主張に対する被告の反論

一  空港の位置決定手続に関する主張

1  政府が昭和四一年七月四日の閣議決定によって、本件空港の位置を千葉県成田市三里塚町を中心とする地区と決定したことは、政府の行政指針を明らかにしたに過ぎず、右決定には、本件空港の位置を現地に即して特定させる法的効果を伴うものではない。同空港の位置が現地に即して法的に特定したのは、被告が昭和四二年一月二三日付で行った本件認可によってである。被告としては、航空法五五条の三第二項が準用する同法三九条の規定に基づき、本件空港の標点位置及び範囲を特定する本件実施計画につき、同条一項一号二号及び五号の認可要件、すなわち、本件空港の位置等が運輸省令で定める基準に適合すること、空港設置によって他人の利益を著しく害することとならないこと及び公団が空港敷地を確実に取得できることを審査する義務を負うのであって、右の閣議決定があっても航空法上被告が右の審査義務を免れることにはならないのである(本件空港については、一般の飛行場とは異なり、航空法三九条一項三号、四号の要件の審査が省略されていることは同法五五条の三第二項の規定から明らかである)。したがって、本件空港の位置等が運輸省令に定める基準に適合しないことが認められれば、被告は閣議決定にもかからず本件実施計画を認可することはできないのである。

このように、右閣議決定には、国民の権利義務の範囲を確定する法的効果を伴わない以上、その存在が本件認可の効力に影響するものではない。また、本件空港の位置を千葉県成田市と定める政令は、新東京国際空港公団法二条に基づいて定められたに過ぎず、これによって、航空法による認可要件の審査手続をまたずして本件空港の位置が確定するという法的効果が生じるものでないことは、右閣議決定におけると同様である。

したがって、右閣議決定ないし政令制定手続が違法であるから本件認可も違法であるとの原告らの主張は、その前提において失当というべきである。

2  原告らは、右閣議決定や政令の制定において本件空港の位置が法的に確定するのであり、その確定の際には公団が設立されていない以上、内閣が本件空港の設置者となると主張し、そのうえで、内閣は航空法三八条一項の規定により被告に許可申請をし、被告は同法三九条二項に基づき公聴会を開催しなければならなかったのに、これら手続が行われていないから、同空港の位置決定ないし設置が違法であると主張している。右閣議決定や政令の制定が同空港の位置を法的に特定するのでないことは既に述べたとおりであるが、右閣議決定や政令の制定により内閣が空港の設置者になるという考え方も誤りである。すなわち、空港整備法の規定する空港は、本件空港のみならず、その全部の空港が政令により設置位置が定められている(関西国際空港については関西国際空港株式会社施行令により、その他の空港については空港整備法施行令により、それぞれ設置位置が定められている)が、同法の規定する空港全部の設置者が内閣であるとする考え方は、航空法、新東京国際空港公団法、関西国際空港株式会社法、空港整備法の諸規定に明らかに矛盾するのである。これらの法律は、空港の位置を定める政令の制定者と空港設置者とが異なることを前提として、設置者の違いに応じて各種の規制を行っているのである。したがって、本件空港の設置者が内閣になるという原告らの見解は誤りである。

二  航空保安施設に関する主張

航空法五五条の三第一項は、本件空港と航空保安施設とをそれぞれ別個の施設として規定しており、本件空港の工事実施計画と航空保安施設の工事実施計画とは別個のものであるから、本件空港敷地の範囲が、航空保安施設のひとつであるILSのミドルマーカーや進入灯を含まなければならないものではない。公団は航空保安施設用地を任意で買収する前提で本件実施計画を作成したが、このことが本件実施計画を不適法なものにすることはない。なお、A滑走路に関する航空保安施設用地の全部の買収が完了していないため、結果的に、公団は、A滑走路南側の末端灯のうち滑走路進入端を示すものを臨時に同滑走路の内側七五〇メートルの位置に移設したが(滑走路終端を示すものは移設していない)、これは航空保安施設用地の一部の買収が完了していないことから行われた暫定的措置である。いずれにせよ、このような航空保安施設の状態は、公団においてその用地の一部が取得できなかったことによって生じたものであり、本件実施計画が本件基本計画や航空法所定の認可要件に適合していないから生じたというものではない。

三  空域に関する主張

原告らが本件空港の問題点として主張する「空域や飛行経路」は、航空法九六条三項四号に規定されている「進入管制区」を指すものであり、これは航空機の離着陸に伴う飛行等のためのものであり、告示により設定される。しかし、同法三九条一項一号の認可要件として審査の対象となるのは、同法施行規則七九条一項二号の滞空旋回圏なのであって進入管制区ではない。滞空旋回圏は、飛行場に着陸しようとする航空機(離陸しようとする航空機には関係がない)が混雑の緩和、気象状況の回復、滑走路閉鎖の解除等を待つための待機旋回をするのに必要不可欠な空域であることから、右規則は、新規に設置される空港の滞空設置圏が既存の飛行場に設定された滞空旋回圏と重ならないことを飛行場設置の要件としているのである。したがって、本件空港の進入管制区の設定の如何は、本件実施計画の認可要件とは直接の関係がないものである。

第九  証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるからこれを引用する。

理由

第一  本件処分の行政処分性について

一  本件認可について

1  本件認可は、新東京国際空港公団法に基づき、本件空港の設置及び管理を目的として政府の全額出資により設立された特殊法人である公団に対し、本件空港を設置する権限を付与するものではあるが、公団が多くの点において被告の監督を受け、その下部組織ともいうべき地位にあることによれば、その認可は、上級行政機関が、下級行政機関に対し監督手段として行う承認に類似する面があることは否めない。

2  しかしながら、飛行場を設置するためには、離着陸する航空機の航行の安全を確保するために、着陸帯付近を低空で昇降、旋回する航空機の航行のための空間を確保すること、すなわち、着陸帯の周辺の一定範囲の空間に一定の高さ以上の障害物がないようにすることが必要である。そこで、航空法二条は、あらゆる飛行場について低空での航行に必要な空間を確保する目的で、着陸帯周辺の空間を区切る進入表面、水平表面及び転移表面を法定している。その範囲は、滑走路又は着陸帯の長さを基準とし、同法施行規則七五条二項所定の着陸帯の等級の区別、当該着陸帯が計器着陸を予定したものか否かという区別によって法令上自動的に定まるものである。すなわち、進入表面の範囲は、同法二条六項で定まる進入区域を投影面として同条七項及び同規則二条により、水平表面の範囲は、同法二条八項及び同規則三条により、転移表面の範囲は、同法二条九項及び同規則三条の二により、それぞれ自動的に定まる。

3  被告は、本件空港の設置を認可した場合には、認可に係る飛行場の位置及び範囲、公共の用に供するかどうかの別、着陸帯、進入区域、進入表面、転移表面、水平表面、供用開始の予定期日等の事項を告示し、現地で掲示しなければならない(航空法五五条の三第二項の準用する同法四〇条)。そして、本件空港は公共の用に供される飛行場であるから、本件告示があった後は、何人も、進入表面等の上に出る高さの建造物、植物その他の物件を設置し、植栽し、又は留置してはならないという不作為義務を課せられ(同法五六条、四九条一項)、これに違反したものは、公団に対し、違反する障害物の除去という作為義務を課せられる(同法四九条二項)。したがって、進入表面等の投影面内にある土地建物の所有権その他の権原を有する者は、その財産権の用益につき従前にはなかった制限を受けることになるが、その用益制限については補償を要するとはされていない。すなわち、同法五六条で準用される同法四九条三項ないし八項及び同法五〇条は、本件告示の際にそれら表面の上に出ている既存の障害物、それら表面との距離が一〇メートル未満の土地のみを補償の対象とし、これに対する関係での補償又は買収請求権を必要とするにとどまるのである。

本件認可に際しては、それら表面の上に出る障害物の有無、程度が審査の対象となるのであって(同法三九条一項、同規則七九条一項一号)公団は、本件申請の際、そのような障害物がある場合には、位置、種類、上に出る高さ、物件の所有者等について具体的に記載することが要求されているのである(同規則七六条一項一三号、七七条四号)。

4 右のような航空法の諸規定に照らせば、本件認可は、公団に対して本件空港の設置権限を付与することを本来の目的としているといえるが、右認可には、法令上必然的に進入表面等の規制による公用制限を伴うものであり、この公用制限は、本件空港を航空の用に供するという特定の目的のために必要不可欠なものとして、その周辺の特定の区域について個別的、具体的に発生する制限であって、これを立法等によって国民一般に対し課せられる財産権の制限と同視することはできない。すなわち、本件認可は、これにより国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められている処分であって、行政事件訴訟法三条二項にいう取消訴訟の対象となる行政庁の処分であるといわなければならない。

二  進入表面等に関する告示の行政処分性について

右のとおり、進入表面等の存在は飛行場の設置に必要不可欠の要素であり、本件認可は、右のような飛行場の設置につき、着陸帯の等級や計器着陸の有無によって法令上当然に定まる進入表面等の範囲を前提とし、その範囲内の障害物の有無や公用制限による補償の要否等についても審査をして行われものである。進入表面等に関する公用制限はその範囲を告示することによって初めて現実化するものであるが、進入表面等の範囲自体は、本件認可とは別個の行政行為を必要とせずに法令上当然に確定されるものであるから、右の公用制限は本件認可の直接の効果として発生するものであって、告示によって発生するものではないと解される。したがって、進入表面等の告示は、国民の権利義務の範囲を確定する行為ではなく、取消訴訟の対象となる行政庁の処分ではないというべきである。

三  本件指定の行政処分性について

1  本件空港のような主要国際空港は、高速で航行しその旋回半径が一般の飛行機よりも遥かに大きな大型ジェット航空機を離着陸させる必要があるうえ、視界の悪い気象条件下においても計器着陸誘導を行って航空機を安全に着陸させるため、当該航空機を遠距離から一定の低空で航行させ航空保安無線施設による誘導を行うことが必要となる。そのような航行を安全に行うためには、進入表面等による規制だけでは必ずしも十分ではなく、進入表面等に接続しこれより外側の広範囲の空間を航空機の航行のために確保することが必要となる。そこで、航空法五六条の二第一項は、被告は、第一種空港及び政令で定める第二種空港について延長進入表面、円錐表面及び外側水平表面の指定を行うことができると規定している。そのうち延長進入表面の指定範囲は、同法五六条の二第二項で法定されているが、円錐表面及び外側水平表面については、同条三項及び四項、同法施行規則九六条の二及び同条の三によって定められている限界のうち、航空機の離陸及び着陸の安全を確保するため必要な部分について指定を行うものとされており、どの範囲で指定を行うのかを被告の判断に委ねている。

延長進入表面等の指定が告示された後は、何人も延長進入表面等の上に出る建造物、植物その他の物件を設置し、植栽し、又は留置してはならないとの不作為義務を課せられるとされ、進入表面等の告示があった場合と同様の公用制限が発生し、その公用制限について一定範囲を除いて補償を要しないとされている(同法五六条の四第二項及び三項)。延長進入表面等の指定は、空港付近の土地の所有者その他の利害関係を有する者の利益を著しく害することとならないように配慮しなければならないとされ(同法五六条の三第一項)、被告がその指定をしようとする場合には、空港設置の認可を行う場合と同様に、事前の告示及び現地での掲示、利害関係人の意見を聴くための公聴会の開催が義務付けられている(同法五六条の三第二項)。

2 右のような航空法の規定によれば、本件指定は、空港の設置を本来の目的とする本件認可とは別個の観点、すなわち、大型航空機の離着陸の安全や航空保安施設の効用の確保という観点から、本件認可とは別個独立の手続により行われる行政行為というべきである。そして、本件指定は、本件空港を航空の用に供するという一定の目的のため、特定の地域につき、その投影面内の区域の土地建物の所有者その他の利用権者の財産権に従前にはなかった具体的な制限を加えるものであり、国民の権利義務の範囲を制限し確定する効果を持つものであるということができるから、取消訴訟の対象となる行政庁の処分であると解すべきである。

四  行政処分性についての被告の主張について

1  被告は、公団は被告との関係で下級行政機関たる性質を有しているから、本件処分は上級行政機関たる被告が下級行政機関たる公団に対して監督手段として行った「承認」に過ぎず、取消訴訟の対象となる行政庁の処分に当たらないと主張する。しかしながら、被告は、空港整備法所定の第一種空港について本来的に自ら設置の権限を有するのであるから、運輸省の直轄事業として空港を設置する場合には航空法上の設置許可手続を必要としないのである。にもかかわらず、本件空港の設置については、そのような直轄事業方式はとられず、運輸省とは別個の特殊法人たる公団が設立されたうえ、航空法の中に本件空港に関する特別の認可手続や認可要件が定められているのであるから、右法律の趣旨に照らせば、本件認可を単なる監督権限の行使と同視することは困難である。しかも、本件認可は、被告が公団の人事や会計行為に対して行う監督行為とは異なり、進入表面等の規制によって特定の範囲の第三者に対する直接的な財産権の制限を発生させる行為であるから、これを被告と公団との間の内部的な行為ということはできない。

2  なお、被告は、進入表面等や延長進入表面等の規制による公用制限のうち、航空法による補償の対象とされないものは、財産権の内容が公共の福祉に適合するように定められた結果、すなわち財産権の内在的制約に過ぎないから、その公用制限は立法による一般的制限と同視すべきであって、このような制限を発生させる行為は、取消訴訟の対象とならないと主張する。

しかしながら、財産権の公用制限に対して法が補償を必要とする規定を置いていないからといって、直ちにその制約が内在的制約であり、その制約を発生させる行為が行政処分たりえないということになるものではない。本件におけるような進入表面等や延長進入表面等の規制による公用制限は、この規制の効果が発生した後は当然に受忍すべき制限であるとしても、特定の空港の安全のために当該空港周辺の一定範囲の財産権についてのみ発生するものであり、しかも、規制の効果を発生させるか否かは行政行為をまたずに当然に決定されるのではなく、行政行為によって決定されるのである。したがって、このような公用制限を発生させる行政行為(本件の場合には本件認可及び本件指定)は、国民の権利義務の範囲を具体的に確定する性質を持つ行政庁の処分であり、取消訴訟の対象となるというべきである。

第二  原告適格について

一  本件認可の取消しを求める原告適格について

1  本件認可の取消しを求める原告適格の有無について

(一)  本件空港を設置する事業は、土地収用法によって土地を収用し、又は使用することができる公共の利益となる事業であって、その敷地となる土地の買収やこれについての権利の取得ができないときには、同法に基づく収用又は使用が行われることが確実である。したがって、本件空港の敷地となる範囲内の土地に所有権等の権利を有する者は、本件認可によってその土地が本件空港の敷地となることが確定したことにより、これを任意に公団に売り渡すか、土地収用法による収用または使用の手続をとられるかのいずれかを選択せざるを得ない立場になった者になる。これは、本件認可によって生ずる直接の効果であるから、そのような選択を余儀なくされることが確実になった者は、本件認可を争う原告適格を肯定されるべきである。別紙原告目録の原告番号一ないし七の原告らは、本件空港の飛行場の敷地となる範囲内にある土地又は建物を所有し、そこに居住して、同様の範囲内にある田畑を所有し、又は賃借してこれを耕作している者であること、同目録の同番号八ないし一二の原告らは、右飛行場の敷地となる範囲内にある田畑を所有してこれを耕作している者であること、同目録の同番号一四ないし二三、二五ないし四一、四三、四五、四八、五一ないし五三及び五五の原告らは、右飛行場の敷地となる範囲内にある土地を共有していることは、当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によってこれを認めることができるから、右原告らは、前記のとおり、本件認可によって、その各土地に対する権利を将来保持できないことが確実になった者として、これを争う法律上の利益があるものと認められる。

(二) 前記のとおり、本件認可によって定まる本件空港の進入表面、転移表面、水平表面の投影面内にある土地等について権利を有する者は、本件認可の効力により、そのそれぞれの表面の上に出る高さの建造物、植物その他の物件を設置し、植栽し、又は留置してはならない義務を負わされることとなるから、右の者には、本件認可を争う原告適格が肯定されるべきである。別紙原告目録の原告番号五六ないし六七の原告らは、本件告示に係る進入表面又は転移表面の投影面内にある土地若しくは建物について所有権、賃借権等の権利を有する者であること(建物について賃借権を有するに過ぎない者であっても、アンテナの設置等において、賃借権の円満な行使を制約されることはあり得る。以下同様である)、同目録の原告番号六八ないし一一〇の原告らは、本件告示に係る水平表面の投影面内にある土地又は建物について所有権、賃借権等の権利を有する者であることは、当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によってこれを認めることができるから、右原告らは、前記のとおり、本件認可によって、その各土地に対する権利の行使を制約されることとなった者として、これを争う法律上の利益があるものと認められる。

(三) 航空法五五条の三が準用する同法三九条は、被告が本件空港設置の申請を審査する基準として、当該飛行場の設置によって、他人の利益を著しく害することとならないものであることを掲げるから、ここにいう他人の利益に当たる利益を有する者は、右審査に当たり、その利益を著しく害されないことが保護されているものということができ、その者については、本件認可の取消しを求める法律上の利益を肯定することができる。

右の者に右(一)及び(二)の者が含まれることは、同法三九条二項の、公聴会において意見を述べる機会を与えられる利害関係を有する者に関する規定からも明らかである。

原告らは、航空機騒音防止法八条の二に基づき第一種区域に指定された区域内にある土地又は建物につき、所有権、賃借権等の権利を有する者が、本件認可を争う法律上の利益を有すると主張する。しかし、同法は、昭和四二年八月一日に初めて公布された法律であって、本件認可の当時には未だ成立していなかったものであるから、右法律に定めるところが、本件認可について、審査基準として考慮されるべきものということのできないことは明らかである。航空法についてみても、同法及び同法施行規則には、被告が本件申請を審査する際に、近隣住民等が本件空港に離着陸する飛行機によって被る騒音被害を考慮することを義務づけようとしたことを窺わせる規定は見当たらないのである。このことと、同法が、被告の設置する飛行場において、当該飛行場の敷地が、従前適法に航空機の離着陸の用に供されており、かつ、当該飛行場の進入表面等の上に出る高さの建造物等がないときは、公聴会を開かないとする規定(五五条の二第二項ただし書き)を置いている趣旨とからすれば、同法は、右の他人の利益を、主として、建造物の設置等が禁止されるという公用制限を受ける者の利益を意味するものとしているのであり、個別の近隣住民等の騒音被害を受けないという利益を含むものとはしていないと解される。そうすると、原告目録の原告番号一一一ないし一一七の原告らには、本件認可の取消しを求める原告適格を肯定することができない。

(四) 本件指定によって指定された円錐表面の投影面内にある土地等について権利を有する者は、本件認可によっては、その土地等に対する権利に何ら影響を受けるものではないし、航空法も、前記他人の利益に、このような何ら土地等に対する権利に影響を受けない者の利益を含めているとは解されないから、これらの者に本件認可を取消しを求める利益を肯定することはできない。したがって、原告目録の原告番号一一八ないし一二〇、一二二、一二四ないし一四五の原告らに本件認可の取消しを求める原告適格を認めることはできない。

2  本件指定の取消しを求める原告適格の有無について

(一) 本件空港の飛行場の敷地となる範囲内にある土地又は建物を所有する者、右飛行場の敷地となる範囲内にある田畑を所有してこれを耕作している者、右飛行場の敷地となる範囲内にある土地を共有している者、本件認可によって定まる本件空港の進入表面、転移表面、水平表面の投影面内にある土地等について権利を有する者は、本件指定によっては、その権利に何らの影響を受けるものではない。航空法五六条の三第一項は、被告がこれらの表面の指定をする場合には、「空港の附近の土地の所有者その他の利害関係を有する者の利益を著しく害することとならないように配慮しなければならない」と規定するが、この規定にいう、空港の付近の土地の所有者その他の利害関係を有する者の利益に、右の者のような何ら土地等に対する権利に影響を受けない者の利益を含めていると解されないことは、前同様であるから、原告目録の原告番号一ないし一二、一四ないし二三、二五ないし四一、四三、四五、四八、五一ないし五三及び五五ないし一一〇の原告らには、本件指定の取消しを求める原告適格を肯定することができない。

(二) 右規定が、本件指定をする被告に対し、近隣住民等が本件空港に離着陸する飛行機によって被る騒音被害を考慮することを義務づける規定が見当たらないことは、本件申請に対する認可の場合と同様であって、前同様の理由により、同法五六条の二による指定についても、同法五六条の三にいうその他の利害関係を有する者の利益に個別の近隣住民等の騒音被害を受けないという利益が含まれるものと解することはできない。そうすると、原告目録の原告番号一一一ないし一一七の原告らには、本件指定の取消しを求める原告適格を肯定することができない。

(三)  本件指定によって指定された円錐表面の投影面内にある土地等について権利を有する者は、本件指定の効力により、その表面の上に出る高さの建造物、植物その他の物件を設置し、植栽し、又は留置してはならない義務を負わされることとなるから、右の者には、本件認可を争う原告適格が肯定されるべきである。別紙原告目録の原告番号一一八ないし一二〇、一二二、一二四ないし一四五の原告らは、本件指定に係る円錐表面の投影面内にある土地又は建物について所有権、賃借権等の権利を有する者であることは、当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によってこれを認めることができるから、右原告らは、本件指定によって、その各土地等に対する権利の行使を制約されることとなった者として、これを争う法律上の利益があるものと認められる。

3  土地等に対する権利を譲渡した者及び本件訴えの提起後死亡した者の訴訟承継人の原告適格

(一) 別紙原告目録の原告番号一三、二四、四二、四四、四六、四七、四九、五〇、五四、一二一及び一二三の原告らは、いずれも本訴提起後その肩書住所地の不動産を売却して原告らの主張する区域のいずれにも属さない区域に転居したものであることは、当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によってこれを認めることができるから、これらの原告らは、本件認可又は本件指定のいずれの取消しを求める原告適格も有しなくなった者である。

(二) 同目録の原告番号六、二一、三一、四一、四五、五三、五五、五八、六六、六八、七二、一一一、一一六、一二二、一三〇、一三九及び一四五の各番号の下に「亡……」として氏名を記載した者らは、いずれも本訴提起後死亡し、その訴えはその訴訟承継人に承継された者である。これらのうち訴訟承継人氏名の記載されていない者は、本訴口頭弁論終結時までに訴訟承継の申立てがなく、承継人が誰であるかの調査ができなかった者であるが、これらの死亡した者は、生前本訴について訴訟代理人を選任しており、その訴訟が中断している訳ではなく、訴訟承継人は、客観的には確定しており、その手続のみが残るところ、その手続は、本件訴訟の判決言渡し後であっても可能であること、本件訴えは昭和四二年以来長期にわたって当裁判所に係属しており、いまこれら承継人の調査のため事件の進行をこれ以上遅延させることは相当でないと考えられることから、本判決においては、承継人は不明のまま亡原告の訴訟承継人として表示することとした。

第三  本件空港を設置する位置の決定に関する手続の違法の主張について

一  原告らは、本件空港の位置を千葉県成田市とする旨の閣議決定の決定手続や同一内容の新東京国際空港の位置を定める政令の制定手続に違法があるから、本件認可も違法であると主張する。

しかしながら、法律上本件認可を適法に行うについて充足しなければならないとされる要件として設定されたものは、本件空港がいずれかの土地に設置されることを前提として、その設置することとした土地が、公共用飛行場として適切な地域であることを要求するものであり、その土地を選択したこと自体を問題とするものは見当たらない。したがって、本件空港をいずれの土地に定めるかの決定やその手続は、本件認可について審査基準とされているものではなく、その適法要件となるものではないと解される。もっとも、新東京国際空港公団法及び航空法の規定を通覧すると、新東京国際空港公団法二条は、本件空港を設置する位置につき、これを長期にわたっての航空機需要に対応することができ、将来における主要な国際航空路線の用に供することができるものであることという要件を備える公共用飛行場として、東京都の周辺の地域に政令で定めるものとし、新東京国際公団法のその他の規定は、右政令の公布の日後において政令で定める日から施行するものとされている(同法附則一条)。右規定に基づいて、新東京国際空港の位置を定める政令が昭和四一年七月五日に公布されて、本件空港の位置が定まり、新東京国際空港公団法の施行期日を定める政令が同月六日に公布されて、同法のその他の規定が同月七日から施行するものとされた。これによって公団が設立され、公団は、これらの手続のうえに立って、本件空港を千葉県成田市に設置するものとして、その前提のもとに、被告の示した基本計画に基づいて工事実施計画を作成し、その認可申請に及んだものであって、これらの政令の公布から本件申請に至る手続は、一連のものとして段階的に積み上げられたものであると見ることもできないではない。そう見ることができるとすると、仮に新東京国際空港の位置を定める政令の制定に違法があって、これが無効であるとされた場合には、そのうえに積み上げられた手続である本件認可もその土台が無効である以上違法となるとされることがないとはいえない。

そこで、以下、そのような見解をとることができるとする前提の下において、本件空港の位置を定める政令の制定に違法があって、これが無効となるといえるかどうかを検討する。

二  空港の設置位置の決定に関する法規制について

1  新東京国際空港公団法制定以前の段階においては、航空法は、次のとおり、飛行場の設置に対する規制措置を規定していた。すなわち、運輸大臣以外の者が一定の場所に飛行場を設置しようとする場合には運輸大臣の許可を要し(同法三八条)、運輸大臣は、同法三九条一項一号ないし五号の許可要件、すなわち飛行場の位置や構造、管理の計画が法令の基準に適合していること(同項一号、三号)、飛行場設置が他人の利益を著しく侵害することがないこと(同項二号)、申請者が飛行場の設置管理能力を有していること(同項四号)、申請者が空港敷地の所有権等を確実に取得できること(同項五号)という許可要件の審査をし、同条二項に基づき利害関係人等の意見を聴く公聴会を開催し、許可の適否の判断を行うものとされていた。また、主として航空運送の用に供する飛行場(空港)のうち、国際航空路に必要な主要空港は第一種空港とされ、運輸大臣がこれを設置及び管理することとされていた(空港整備法二条及び三条)。したがって、航空法三八条及び三九条所定の飛行場設置の規制措置は、主として地方公共団体や民間人が第一種空港以外の飛行場を設置する場合に適用されるものであった。

2  本件空港は、羽田空港に代わり、わが国の国策として設置される主要国際空港であったから、空港整備法の趣旨に照らせば、運輸大臣が設置するのが相当と考えられるものであった。しかし、これを特殊法人たる公団によって行わせるという立法政策がとられた結果、新東京国際空港公団法(昭和四〇年六月二日法律第一一五号)が制定され、これにより空港整備法や航空法の一部が改正され、公団は第一種空港たる本件空港の設置及び管理を行うものとされ、公団の本件空港設置事業については航空法上の運輸大臣の許可は必要ではなく、これに代わって認可手続が設けられた(同法五五条の三)。

3  新東京国際空港公団法二条は、公団が設置すべき本件空港の位置を東京都の周辺で政令で定める位置に設置すると規定し、「東京都の周辺」という以上の具体的な本件空港の位置の決定を政令に委任し、政府は、本件空港の位置を千葉県成田市とする政令を制定したものである。

4  航空法は、本件空港の位置が政令で決定された後についての認可要件や認可の手続を定めており、公団は被告に対して所定の書類や図面を添付して被告に認可を申請すべきこと(同法五五条の三第一項)、被告は本件空港の位置等を告示し現地で掲示すべきこと(同法五五条の三第二項によって準用される三八条三項、四〇条)、被告は地元住民等の利害関係人から意見を聴取する公聴会を開催すべきこと(同法五五条の三第二項によって準用される三九条二項)が規定されている。しかし、政府が本件空港の位置を決定する手続については、新東京国際空港公団法や航空法の中に、地元住民等の利害関係人の意見を聴く等の特段の手続が必要である旨の規定は設けられていない。したがって、新東京国際空港公団法は、本件空港の設置位置の決定手続や決定内容を政府の専門的、政策的な裁量判断に委ねたと解するほかはない。

三  本件空港の設置位置に関する法規制は右のとおりであるところ、原告らは、政府が閣議決定や政令の制定という手段で本件空港の位置を決定する場合には、政府は飛行場設置者となるのであるから、被告に対し航空法三八条一項の許可申請をすべき義務を負っていたのであり、被告もその許可申請に対応して同法三九条二項所定の公聴会を開催すべき義務を負っていたはずであると主張する。しかし、新東京国際空港公団法制定による航空法の改正において、公団につき同法三八条一項所定の許可手続が廃止された経緯に照らせば、原告主張のような航空法三八条一項の政府への適用があるとは考えられないところであって、右の法律上の主張は失当である。

四  その他に政府の行った本件空港の位置の決定手続や決定内容について、新東京国際空港公団法の委任の趣旨を逸脱するとか、その裁量権を濫用して行われたとかの違法があるか否かについて検討するに、いずれも成立に争いのない甲第五号証の一、第一九、第二八、第一六八号証、第一六九号証の一及び二、第一七八号証、第二二三号証の一(書込み部分を除く)及び二、第二二六号証並びに証人川上紀一の証言によれば、以下の事実が認められる。

1  政府は、昭和三〇年代後半において国際航空輸送の需要の将来の激増を予測しこれに対応するため、昭和三七年以降、運輸省航空局を中心として東京周辺に新しい主要国際空港の設置を検討するようになった。被告は、昭和三八年八月、新空港の候補地として茨城県霞ケ浦周辺、千葉県浦安沖及び富里村付近の三案を中心にして航空審議会に対し新空港の位置や規模につき諮問した。航空審議会は、右三候補地につき、航空管制、気象条件、地形地質等の工事上の問題、都心との交通、航空機騒音等による被害などの諸条件につき専門家の意見を徴して検討し、昭和三八年一二月、防衛庁との間の調整問題や他の飛行場との間の航空管制上の調整問題がない千葉県富里村付近が候補地として最も適当であると答申した。

2  新空港の位置については政府部内でも意見の相違があり、右答申を受けた後も直ちに設置位置の正式な決定は行われず、昭和四〇年四月以降関係事務次官会議において、東京湾の埋立地や米軍に提供中の飛行場の利用なども視野に入れ、被告諮問の三候補地を含め多数の候補地について各種の検討が行われたが、新東京国際空港公団法が成立した昭和四〇年六月一日の時点においても、まだ新空港の位置の正式決定は行われておらず、同法二条は新空港の位置を東京都周辺とだけ規定し、具体的な位置決定を政令に委ねた。関係閣議会議は、結局、航空管制、地形・地質、航空機騒音の観点から、やはり富里村付近が最適であると判断し、政府も、昭和四〇年一一月一八日、関係閣僚協議会において新空港の位置を富里村付近と内定した。

3  ところが、右の富里案については地元の反対が強く友納千葉県知事も地元と協議することなく内定したとして強く反発し、昭和四一年二月には地元住民に対して説得の態度をとらず事態を静観するという事実上富里案に反対する所信を表明するに至ったため、政府は富里案を正式に決定することができなくなった。そのような状況下において、若狭運輸事務次官と友納知事との間で新空港の設置につき非公式の会談がもたれることになった。もともと、富里案が最適とされたのは、その付近が開発の進んでいない地域であって大規模な都市がなく、人口も比較的少ない農耕地帯であって、関東ローム層に覆われた平坦な北総台地の中に広大な土地を確保できること、航空管制上も支障が少ないことが重視されたためであるところ、右の会談の中で、富里村の北方約一〇キロメートルに位置する成田市三里塚町を中心とする地区は、同じ北総台地にあり、航空管制、地形・地質、気象、交通等の立地条件において富里村との間に大差はなく、同地区に存在する広大な国有地(下総御料牧場)及び公有地を最大限に利用したうえ空港敷地面積を一〇〇〇ヘクタール程度(富里案の新空港案の約半分)にすることで立退きを要する民有地面積を縮小(富里案の立退き予定戸数は約一五〇〇戸)することができることが取り上げられるようになった。そして、佐藤首相は昭和四一年六月二二日友納知事に対し右三里塚案への協力を求め、同知事もそのころ、立退きを要求される住民及び近隣住民に対する国の誠意のある補償対策が得られるのであれば右三里塚案の実現に協力するとの意向を示したので、政府は、昭和四一年七月四日、本件空港を成田市三里塚町を中心とする地区の一〇六〇ヘクタール程度とする旨を閣議決定するとともに、千葉県の要望に沿う土地等の補償や騒音対策などを行う旨を閣議決定し、翌五日、新東京国際空港公団法二条に基づき、本件空港の位置を千葉県成田市とする政令を制定・公布した。

4  右のとおり、公団は、新東京国際空港公団法及びこれに基づく政令により、千葉県成田市に本件空港を設置する義務を負うものとされたところ、右閣議決定の趣旨に従い、成田市三里塚地区の三九五ヘクタールの右国公有地を空港敷地に有効に利用して民有地の買収範囲を極力少なくし、騒音防止の観点から近隣の最大の市街地である成田市中心部が航空機の飛行経路から外れるように本件実施計画を作成し本件申請に至ったものであるが、それ以前の段階において、空港設置が想定される地区の地権者その他の利害関係人から公に意見を聴取する手続は行われていない。

五 右認定のとおりであって、本件空港が主要国際空港という地元住民に重大な影響を及ぼす空港である点を考慮すると、右の位置決定に当たっては、地元県知事を通じた協力要請だけではなく、地元住民の納得が得られるような幅広い意見の聴取を行うことが望ましく、現実にはこの点について十分配慮がされたものとは必ずしも認め難いが、新東京国際空港公団法や航空法は空港の位置決定についてそのような手続を要求しておらず、地元住民に対する事前説明や意見聴取を行うことが憲法上要請されていると解することもできないから、その決定過程に法令に違反した点があったとはいえない。

したがって、本件空港の位置決定手続の違法をいう原告らの主張は理由がない。

第四  本件認可の関係法規への適合性について

航空法五五条の三第一項及び二項によれば、本件実施計画が適法に行われるためには、これが本件基本計画に従ったものであること、同法三九条一項一、二及び五号の各要件に適合していることが必要であり、かつそれで足りるから、被告は右計画が右の各要件を充たすものであるかどうかを審査すべきことになる。また、同法五五条の三第二項によれば、被告が本件実施計画を認可しようとする場合には、同法三九条二項所定の公聴会を開催するという手続を履践しなければならないとされている。この公聴会は、本件空港設置事業が社会経済に大きな影響を与える公共事業であることから、その認可に当たっては関係各方面から幅広く意見を聴取して慎重な判断を行うために開催を要求されているものである。したがって、この手続を欠く場合には認可は違法なものとなると解すべきである。そこで、右に述べた認可の各要件が具備されているかどうかについて検討する。

一  本件実施計画の本件基本計画への適合性について

1  新東京国際空港公団法二二条及び航空法五五条の三第一項によれば、公団作成の本件実施計画は被告指示の本件基本計画に合致しなければならないとされているところ、当事者間に争いがない本件実施計画の内容と弁論の全趣旨によって真正に成立したものと認められる乙第一号証によって明らかな本件基本計画の内容とは、合致していることが認められるから、本件実施計画は本件基本計画に適合したものであるということができる。

2  原告は、本件空港のA滑走路は現実には本件基本計画で指示された四〇〇〇メートルの長さで使用されておらず、本件認可には、そのような事態にならざるを得ないことになる本件申請の瑕疵を看過した違法があると主張する。

前掲乙第一号証、いずれも成立に争いのない甲第三四ないし第三七号証の各一及び、第一六七、第二一二号証及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(一) 本件基本計画は、航空保安無線施設として、NDB、VORその他必要と認められる航空保安無線施設を掲げているが、本件空港は、わが国の主要国際空港であって、夜間や気象条件が悪い状況下でも大型航空機を安全に離着陸させることが求められているため、その滑走路は、精密進入用の計器着陸装置(ILS)が設置された計器滑走路とする必要があった。そのため本件実施計画は、本件基本計画を受け、本件空港の滑走路をカテゴリー二に区分される精密進入用の計器滑走路とし、別紙第6図のとおり、滑走路端から外側三五〇メートルの地点に進入限界高度を知らせるインナーマーカーを、滑走路端から外側一〇五〇メートルの地点に進入限界高度を知らせるミドルマーカーを設置することになっていた。右ILS及びこれに対応する進入灯を設置するためには、その用地として、概ね別紙第7図の点線で囲まれる範囲の土地約一一三ヘクタール(その中に存在する民家は六一戸)が必要であった。

(二) 本件申請の際に空港敷地とされ、本件空港設置事業対象用地として土地収用法による事業認定を受けることが予定された範囲は、同図面の実線で囲まれる部分の土地約一〇六五ヘクタール(そのうち民有地部分は約六七〇ヘクタール、その中に存在する民家は三二五戸である)のみであり、公団は、本件実施計画とは別に、航空保安施設の工事実施計画について被告の認可を受ける際にはその用地を任意買収で取得することを予定していた。そして、被告もそのような公団の方針を了解し、そのことを一応の前提として本件認可を行った。

(三) ところが、結果的に、今日までその用地全部の任意買収が完了しないまま昭和五三年五月に第一期工事施行完了部分についていわゆる暫定開港を迎えることになったため、A滑走路においては、空港敷地の境界附近(A滑走路端から約三〇〇メートル外側)にILSのミドルマーカーが設置され、ILSのインナーマーカーは設置する場所がないため設置されないことになった。そのため、A滑走路は計画されたカテゴリー二ではなくカテゴリー一に区分される精密進入用の計器滑走路の機能しかないことになった。しかも、ILSのミドルマーカーを右のとおり設置したため、このミドルマーカーに対応する進入灯などの航空灯火(滑走路の外側九〇〇メートルの範囲に設置されるはずであった)は、A滑走路の内側七五〇メートルに別紙第8図のとおり移動して埋め込まれ設置されざるをえなかった結果、A滑走路は、物理的には四〇〇〇メートルの長さで舗装され整備されたものの、現在まで三二五〇メートルの長さの計器滑走路としてだけ機能する状態となっている。

3  右認定のとおりであって、確かに本件空港のA滑走路は現に本件基本計画で指示された四〇〇〇メートルの計器滑走路としては機能していない。しかしながら、このような結果は、本件実施計画自体の欠陥によって発生したのではなく、航空保安施設の工事実施計画が用地買収の遅れによって計画通りに完了しなかったために生じたものである。そして、新東京国際空港公団法二〇条一項一号及び二号、航空法五五条の三第一項の規定の文言から明らかなとおり、本件空港の設置事業と航空保安施設の設置事業とは、それぞれ別個の手続により別個に認可されることになっているのであるから、本件認可自体は、直接には航空保安施設の適否の審査を含まないのである。したがって、右のような結果が生じているとしても、このことから遡って本件実施計画を容認した本件認可が違法なものになるとはいえない。

もっとも、予定の航空保安施設の設置が地形的な原因その他の理由により不可能であると考えるべき状況があるとすれば、そのような状況下においては空港設置の工事実施計画を容認することはできないこととなり得ようが、本件においては、航空保安施設の設置が不可能になるような物理的な原因があったとは認められないし、空港敷地と比較して航空保安施設用地は規模が小さく立退きが必要となる民家も少なかったのであるから、被告が航空保安施設用地の任意買収が可能であるという一応の前提の下において本件実施計画の審査を行ったことを違法とすることはできない。

したがって、この点に関する原告らの主張は理由がない。

二  航空法五五条の三第二項によって準用される同法三九条一項一号の要件(本件空港の位置、構造等の設置の計画が運輸省令で定める基準に適合するものであること)について

1  右規定によれば、本件実施計画は、航空法施行規則七九条一項一号ないし五号の二及び九号の要件に適合する必要があるところ、前掲の乙第一号証並びにいずれも弁論の全趣旨によって真正に成立したものと認められる乙第二号証の一及び四ないし二四によれば、(一) 本件実施計画に従って設置される本件空港の標点位置に照らせば、その進入表面等の範囲は本件告示のとおりであって、本件認可当時それら表面の上に出る高さの障害物は存在しなかったこと、(二) 本件空港周辺には羽田空港並びに百里、下総及び霞ケ浦の各飛行場が存在するが、それら飛行場と設置予定の本件空港との間には三〇キロメートル以上の距離があり、本件空港の滞空旋回圏は、それら既存の周辺飛行場について設定された滞空旋回圏と重なり合わないこと、(三) 本件空港の三本の滑走路、着陸帯及び誘導路の形状並びに誘導路と固定障害物との間隔は被告主張のとおりであること、(四) 本件空港の各滑走路は離着陸が予定されていたボーイング七四七型機及び七二七型機の運航に十分な強度を有すること、(五) 本件空港の各滑走路と誘導路の間の距離は一五五メートル存在し、これらの上を航行する航空機の航行の安全のために相互間に十分な距離を確保しており、滑走路と誘導路の接続点における角度及び形状が適切であること、(六) 本件空港の滑走路及び誘導路の両側には、幅7.5メートル、舗装厚六〇センチメートル等の適当な幅及び強度を有するショルダーが設けられること、(七) 本件空港の飛行場標識施設は、滑走路標識についての指示標識、滑走路中心線標識、滑走路末端標識、滑走路中央標識、接地帯標識及び滑走路縁標識、滑走帯標識、誘導路標識についての誘導路中心線標識及び停止位置標識並びに風向指示器が設けられることの各事実が認められる。

右認定事実によれば、本件申請に係る本件実施計画は、航空法施行規則七九条一項一号ないし五号の二の各要件に適合するものと認められる。

2  原告らは、本件空港周辺の空域は非常に複雑に入り組んでおり、本件空港に離着陸する航空機の安全な上昇及び降下を確保するための空域が確保されておらず、航空法施行規則七九条一項二号の滞空旋回圏が確保されていないと主張する。しかしながら、同号の滞空旋回圏は、着陸しようとする航空機が混雑の緩和や気象条件の回復を待つために飛行場周辺の上空で待機旋回するために必要な空間を指すのであって、離着陸飛行を行うにつき飛行場からの地上管制を受ける空域(航空法二条所定の「航空交通管制圏」ないし同法九六条所定の「進入管制区」)を意味するものではない。被告は、航空機の安全な航行を図るため、本件空港についても航空交通管制圏ないし進入管制区の指定や告示を行う責務を有するものであるが、それらの指定や告示は、航空機の安全航行の観点から行われるのであって、航空機の性能、航空管制の技術、無線施設の性能その他の事情によって左右されるものであり、本件空港の設置の適否の審査については直接の関連性を有するものではないから、航空交通管制圏や進入管制区が複雑になるということから直ちに本件認可が違法であるとすることはできない。

また、原告らは、本件空港のB滑走路が二五〇〇メートルの長さしかない点は国際空港の滑走路として短かきに過ぎ航空法に違反していると主張するが、国際空港につき二五〇〇メートル以下の滑走路の設置を禁止した法令は存在しないから、右主張も採用することができない。

三  航空法五五条の三第二項によって準用される同法三九条一項二号の要件(本件空港の設置によって、他人の利益を著しく害することとならないものであること)について

1  同法三九条一項二号の要件は、「他人の利益を著しく害することとならないものであること」という規範的かつ抽象的な言葉をもって規定されているから、これを具体的な場合に適用するには、どのような判断基準によるべきであるのかが、問題となる。

この点については、空港には、その用途の公共性の高いものから、およそ公共の用に供しないものまで、さまざまのものがあり得る一方、その設置によって他人の利益に与える影響の度合いも、公共性の高い大規模な空港にあっては相当大きなものとなるが、公共性の低い小規模のものについてはこれが小さくなるなど違いが生じる。そして、公共性の高い空港については、その低いものに比べて設置の必要性が高いから、その設置によって他人の利益を害する度合いがある程度高くなってもやむを得ないとされることとなろう。したがって、この要件は、設置される空港の公共性の程度とその設置によって侵害される他人の利益のその侵害の程度とを、その侵害に対する補償措置をどれだけとることができるのかを考慮しつつ総合的に比較衡量し、前者が優越し、個人的利益の侵害がやむを得ず、その結果が他人の利益を著しく害するものとはいえないと判断される場合には、これが充足されるものと判断すべきである。

原告らは、補償措置によっても代替することの許されない憲法上の基本的人権である生存権的土地所有権なるものがあるとの前提の下に、このような個人的利益を侵害することになる本件空港の設置は他人の利益を著しく侵害するものであるとし、本件実施計画が同法三九条一項二号の認可要件を欠くと主張するが、代替地や補償金による補償措置を講じてもなお高度の公共性のある目的に用いることが許されないような性質の土地所有権が憲法上及び法律上存在することは認められないから、右の主張は理由がない。

2  そこで、右の見地から検討するに、前掲の甲第五号証の一、第一九、第二八、第一六八号証、第一六九号証の一及び二、第一七八号証、いずれも成立に争いがない甲第四、第一四七、第一六二号証、第一七三号証の一及び二、第一八一ないし一八三号証並びに証人川上紀一及び同萩原進の各証言によれば、以下の事実が認められる。

(一) わが国の昭和三二年から四二年までの航空機による輸送の実績は別表1のとおりであり、国際航空輸送量は昭和四二年四億七八〇〇万トンキロであって昭和三二年の約一五倍に達し、過去一〇年間の国際輸送の伸び率は、旅客や貨物及び郵便物とも平均して年間三割を越えていた。また、国際輸送に使用される航空機は、昭和四五年以降ボーイング七四七型ジャンボジェット機が、昭和四七年ころ以降エアバスが、それぞれ就航する予定となっており、航空輸送の大型化、高速化が予測されていた。これに対し、羽田空港の国際定期便の発着回数は別表2のとおりであり、運輸省航空局は、昭和三八年の時点において、昭和三九年に供用開始予定であったC滑走路を含めた同空港の年間の最大発着回数を一七万五〇〇〇回と計算したうえ、国内線及び国際線を合わせた航空輸送需要が従前と同様に増大した場合には、昭和四五年ころに空港の発着能力の限界に達すると予測し、政府の諮問機関である航空審議会も、昭和三八年の時点において、欧米主要国の航空交通の普及度及びわが国の経済成長率から推測して相当長期にわたり航空輸送需要の増加傾向が続き、仮に昭和四五年以降は増加率が相当鈍化するものとして算出しても、以後二〇年を出ずして同空港の一〇倍以上の航空機の発着があるものと推定していた。そのような状況であったから、政府は、航空審議会の答申により、わが国の長期的な社会経済の発展に対応できる新しい主要国際空港を国策として建設する必要を認めた。

(二) 本件空港の位置が決定された経過は前記のとおりであったが、本件実施計画による本件空港敷地約一〇六五ヘクタールには、国有地(下総御料牧場)二四三ヘクタールと公有地一五二ヘクタールが取り込まれ、民有地は六七〇ヘクタール(民家の戸数は三二五戸)であり、その内訳は、宅地が約三〇ヘクタール(四パーセント)、農地が約四四九ヘクタール(六七パーセント)、山林原野その他が約一九二ヘクタール(二九パーセント)であった。

右農地は大半が関東ローム層と呼ばれる土壌で覆われた畑作地帯であるところ、この農地は、竹林や松林、あるいは御料牧場の縮小に伴い解放された牧場地であった場所に入植した農家が二世代又はそれ以上にわたり開拓した土地であり、土壌に改良を加えて比較的肥沃な農地としたものであって、野菜等を中心とした作物を東京方面に出荷し安定した農業経営が行われていた地域であったが、本件実施計画が認可された場合には、当然のことながら農地として耕作の用に供することはできなくなる。

一方、本件空港付近の農地は畑作には適していたものの水利に恵まれず、水稲のような安定的な作物の耕作に適していない面があったことから、農業経営の安定を図るため、昭和三九年以降、千葉県農産課が本件空港付近(成田市遠山地区)に一〇〇〇ヘクタールを越える集団桑畑を造り、一貫生産体制による大規模な協同養蚕事業を形成することを企画していた。シルクコンビナート計画と呼ばれたこの事業計画は、従前の小規模な農業経営とは大きく発想を異にするものであったため、当初は農業経営の大幅な転換を嫌う農家が多かったが、千葉県農産課等の説得により、次第に賛同する農家が増え、昭和四〇年三月には約八五ヘクタールの土地で桑の根付けが行われて、同年八月には一八六戸の農家により成田市養蚕協同組合が設立され(その後、成田市農業協同組合に合併)、稚蚕所、壮蚕所の建設その他の固定資産の取得が行われ、昭和四一年五月には組合員による初の繭の収穫があった。ところが、昭和四一年六月二四日ころには、本件空港が成田市三里塚町を中心とする地区に設置することが確実な状況となり、千葉県及び成田市役所から成田市農協に対し、シルクコンビナート計画の中止が求められ、計画は挫折し、それまでに投じられた費用は無駄になるとともに組合員は既に開始されていた養蚕事業から所得を得ることができなくなった。シルクコンビナート計画に対する補償については、同年八月に損失額について合意がされ、成田市農協が損失補償額の融資を受けてこれを組合員に立替払することで一応の解決が行われた(千葉県は、昭和四三年に右農協に右補償額を支払って補償問題が終結した)。

(三) 政府は、昭和四一年七月四日、本件空港の位置及び規模について閣議決定をすると同時に、本件空港の位置決定に伴う地元対策として千葉県当局の要望にそう諸対策を行うとの閣議決定をした。そのうち、地元住民対策とされた内容は左記のとおりである。

(1) 土地等補償について

新東京国際空港建設予定地の土地取得、物件移転等の補償については、土地代及び家屋等の物件の移転費、移転に伴う離作料、営業補償等の通常生ずる損失について個別的に算定する建前のもとに、千葉県知事の意向を十分尊重して決定する。

(2) 代替地について

ア 営農を継続する意思のある農民に対しては、国は県の協力を得て、移転先につき申出者の希望を尊重して所要の代替地を用意し、営農が円滑に行えるよう資金及び技術等の援助をする。

イ 商工業を営む者についても、これに準じた措置を講ずる。

ウ 下総御料牧場の従業員については、国が責任をもって措置することとする。

(3) 騒音対策

ア 騒音対策については、今回建設が予定されている新空港の性格にかんがみ、現在国が実施している騒音対策の基準等も勘案して、一定ホン以上のものについて格別の配慮を行う。なお、地元関係者を含めた「騒音対策委員会」を設置する。

イ 騒音対策区域内の住家及び店舗で移転を希望するものについては、実情に応じ、移転先のあっせん、移転料の支払等について国が所要の措置を講ずる。学校、病院については国費をもって措置する。

ウ 騒音対策区域内の農耕地については、必要なものにつき畑地かんがい施設を建設し、農業収入の増大を図る。

(4) 職業転換対策

離職者の職業あっせんについては、住民の希望を徴し、国が責任をもって空港の事業、関連事業等に就業せしめるよう措置する。殊に、空港における構内営業は、地元民に優先的に解放する。

(四) 政府が、公共的事業を行うに際してあまり前例のない右のような閣議決定を行ったのは、本件空港が内陸部の大型空港であって地元住民の利益を相当程度犠牲にせざるをえないことから、地元住民の協力を得ることなくその事業を遂行することができないと考えられたことや国策として本件空港を設置し地元自治体にも協力を求めるのであれば、国の予算と責任において十分な地元住民対策をとることを前提とされなければならないという千葉県知事の強い申入れがあったことによるものであった。

千葉県は、右閣議決定の直後から「国際空港相談所」を設置して住民に接触を図ってその理解を求めるとともに、千葉県が必要と考える用排水対策、都市対策、道路対策、職業対策、営農対策等について関係各省に必要な措置を要請するというような活動を開始し、農地の取得ができない公団に代わって移転農家への代替地のあっせん作業を開始した。

(五) 被告は、航空法五五条の三第二項で準用される同法三九条二項に基づき、昭和四二年一月一〇日、千葉県庁で公聴会を開催し、出席者三六名(うち二九名が地元住民)から本件空港設置に関する意見を聴取したところ、賛成が一八名(条件付賛成を含む)、反対が一八名(いずれも地元住民)であった。なお、右公聴会は延長進入表面等の指定に際して必要とされる公聴会(同法五六条の三第二項)を兼ねていたものであるが、延長進入表面等の指定については特に意見は述べられなかった。

(六) 被告は、公聴会の後の昭和四二年一月二三日、政府の右閣議決定があったことから、将来、地元農家その他の住民に対する移転対策、騒音対策等の補償措置が十分に行われるものと認め、本件空港の設置が他人の利益を著しく害することはないものと判断し本件認可を行ったものであるが、本件認可の後本件空港の開港(昭和五三年五月の暫定開港)までに行われた代替地の提供や騒音に対する施策は、次のようなものであった。

(1) 政府は、昭和四二年八月一日には、航空機騒音防止法が公布・施行され、本件空港は同法二条にいう「特定飛行場」とされたことから、国、被告、公団等は、本件空港について、航空機の航行の方法の指定、学校や病院に対する騒音防止工事の助成その他の騒音防止対策をとることができるようになった。また同法九条により「指定区域」とされた区域(その後、同法の改正により第二種区域と改められた)については、移転の補償が行われることになった。

(2) 公団は、昭和四三年二月一日、成田市に「生活設計相談所」を開設し、空港敷地から移転が必要となる用地提供者、商工業者などの将来の生活設計について相談に応じ、関係公共機関などと連絡をとりながら関係住民に便宜を供与する活動を開始した。また、同年一一月一日には、離職者の転職を容易かつ有利にするための職業訓練及び空港関連従業員の訓練、養成機関として、千葉県立芝山職業訓練所が発足し、転職のための助成活動が開始された。

(3) 昭和四一年八月以降、補償条件の合意を前提として本件空港の設置に賛同するいわゆる条件派の地権者や住民の組織が結成されていたが、昭和四三年四月六日には、いわゆる条件派四派と公団が、代替地等につき覚書を交わした。この覚書による合意は、畑の土地価格を一反(9.92アール)当たり一四〇万円とし代替地価格をこれより五〇万円引きとしたうえで、他の地目の土地についても畑と同比率で引き上げるという代替地の提供条件を立場の如何にかかわらず一律とするものであった。これら条件派の住民は、その後、本件空港に必要な土地の殆どを提供することとなった。

(4) 政府は、昭和四三年一〇月一一日開催の臨時新東京国際空港関係閣僚協議会において、航空機騒音防止法の指定区域外の土地であっても騒音区域(滑走路末端から二キロメートル、滑走路中心線から各六〇〇メートルの地域)内の土地については、買取希望のある者から空港敷地と同一価格で買収を行うことを決定した。

(5) 公団及び千葉県は、昭和四四年六月までに、空港敷地の移転農家に提供する代替地として約五〇〇ヘクタールを確保し、開墾やかんがいなどが必要な二五六ヘクタールの代替地につき造成工事を施工したうえ、四六〇人の代替地希望者に対し約三一〇ヘクタールの代替地を配分した。代替地としては成田市内及び空港近隣を希望する者が多かったため、この地域に代替地を希望する者に対しては、空港の敷地の提供面積が二町以上の場合は七反五畝の、二町未満五反以上の場合は五反の、五反未満三反以上の場合は二反五畝の、三反未満の場合は七畝の各代替地の配分が行われ、右の地域以外の地域を希望した者に対しては従前の経営規模に見合う代替地の配分が行われた。

(6) 環境庁長官は、公害対策基本法(昭和四二年法律第一三二号)九条に基づき、昭和四八年一二月二七日付告示により、「航空機騒音に係る環境基準」を定めた。これによれば、住居専用区域における航空機騒音の環境基準がWECPNL七〇以下、通常の生活を保全する必要のある地域がWECPNL七五以下と定められた。本件空港については、一〇年以内に環境基準を達成することが目標とされ、これが困難と考えられる場合には、当該地域に引き続き居住を希望する者に対し家屋防音工事を行う等の施策による屋内での環境基準の保持を図るべきことが定められた。

(7) 航空機騒音防止法は、昭和四九年三月二七日改正されて、民家の防音工事に対する国の助成措置が加えられた。被告は、昭和五一年一月八日付告示により、改正された同法八条の二に基づき第一種区域(航空機騒音による障害が著しいと認められ、防音工事の助成が行われる区域であって、同法施行令六条及び同法施行規則一条二項によってWECPNL八五以上の騒音があるとされる区域)、同法九条に基づき第二種区域(第一種区域の中で航空機騒音による障害が特に著しいと認められ、移転補償が行われる区域であって、同政令によってWECPNL九〇以上の騒音があるとされる区域)、同法九条の二に基づき第三種区域(第二種区域の中で新たに航空機騒音による障害の発生を防止し、その周辺における生活改善に資する必要があると認められ、緑地帯その他の緩衝地帯とすべきとされる区域であって、同政令によってWECPNL九五以上の騒音があるとされる区域)を定め、これらの区域内で航空機騒音の被害を受ける住民に対する助成措置や移転補償が行われることになり、その後、これに基づく施策が講じられた。なお、第一種区域の騒音基準は昭和五四年七月一〇日にWECPNL八〇以上に、昭和五七年三月三〇日にWECPNL七五以上に改定された結果、その範囲は約二〇〇〇ヘクタール(その区域内の防音工事の対象となる民家は九五〇戸以上)に拡大された。

また、千葉県は、民家に対する防音対策を盛り込んだ航空機騒音防止法の右の改正を政府に要請したものであるが、右改正を待たずにこれに先立ち、昭和四六年一二月以降、民家に対する防音工事の独自の助成制度を発足させ、助成を実施していた。

3  右の事実が認められるところ、右認定事実及び第三の四で認定した事実(本件空港位置決定経過)に照らせば、本件認可の当時、社会経済的観点から本件空港の設置が急がれる公共の必要性があったものということができ、本件空港を設置することによって得られる公共の利益は、内陸空港たる本件空港の設置に伴いその敷地とする土地の地権者や一定範囲の権利の制約を伴う付近の土地所有者等の権利、多数の付近住民の騒音に曝されないで生活を営む利益という個人的利益の侵害と比較して優越していたものというべきである。そして、右の個人的利益の侵害に対する補償措置は、本件認可当時既に地元住民対策についての国の基本方針が閣議決定されていて、国の援助で措置がとられることになっており、千葉県もこれに協力する姿勢を示していたところであって、右閣議決定が実現性や実効性のないものであったと認めるべき事情は当時なかったのであり、その後に行われた右認定の各種の施策からも明らかなとおり、右閣議決定は順次施策となって実現されていたのである。このように、本件空港設置に伴って侵害される個人的利益に対しては、必要な補償措置がとられることが本件認可当時確実に見込まれるものであったから、空港設置によって高度の公共の利益が実現されるとみられた本件において、代償措置を伴う個人的利益の侵害はやむをえないものということができたものであり、本件認可当時本件実施計画が他人の利益を著しく害することがないと認めた被告の判断が誤っていたということはできないというべきである。

4  なお、弁論の全趣旨によれば、国や公団は本件認可以前の段階で航空機騒音に対する周到な環境影響調査を行っていないことが認められるところ、前掲の甲第四号証によれば、昭和六三年度において千葉県環境部が行った本件空港周辺の航空機騒音の状況は次のとおりであることが認められる。

すなわち、本件空港の供用滑走路(A滑走路一本)に昭和六三年の一年間に行われた航空機の離着陸は一〇万七二六六回(一日平均二九四回)であり、本件空港の周辺南北三五キロメートル東西六キロメートルの範囲の五七か所の調査地点の中で、測定期間中(昭和六三年七月末及び平成元年一月の各一週間)の最高騒音値が一〇〇ホンを超える地点が三か所、九九ないし九五ホンの地点が七か所、九四ないし九〇ホンの地点が一四か所、八九ないし八五ホンの地点が九か所、八四ないし八〇ホンの地点が二一か所、七九ないし七五ホンの地点が九か所、七九ないし七五ホンの地点が三か所であり、七四ホン以下の地点はない。また、WECPNLの週間値が八五を超える地点が三か所、八四ないし八〇の地点が七か所、七九ないし七五の地点が九か所、七四ないし七〇の地点が一七か所、六九ないし六五の地点が一四か所、六四以下の地点が七か所となっており、公害対策基本法による環境基準は達成されていないし、この状態は開港以降大幅には改善されないまま継続していた。

また、成立に争いのない甲第三号証によれば、平成元年に民間の団体によって行われた本件空港周辺住民に対する航空機騒音のアンケート調査の結果によれば、多数の住民が、屋内での会話、電話やテレビの聴取、田畑での会話などに困難に感じており、読書、思考、睡眠への影響、耳鳴り、頭痛等の身体への影響などの被害を訴えていることが認められる。

このように、本件空港が内陸空港であることから生じる航空機騒音の被害は、なお必ずしも十分軽減されているとはいえない状況にあることは事実である。しかしながら、本件認可当時には航空機騒音に対する一定の対策が行われるべきことが決定され、その後、実際にも各種騒音対策が実施されていたものであって、このことに、空港周辺住民の被る被害というものが諸般の施策によって緩和されうるものであり、空港設置によってもたらされる公共の利益、空港周辺が人工密集地ではなく、比較的開発の進んでいない農耕地帯であったことなども総合勘案すれば、右の事情があるからといって本件認可が航空法三九条一項二号の要件に反しているとまでいうことはできない。

四  航空法三九条一項五号の要件(公団が本件空港敷地の所有権その他の使用の権原を確実に取得することができると認められること)について

1  前掲の甲第二八号証及び乙第一号証、いずれも弁論の全趣旨によって真正に成立したものと認められる乙第二号証の三の一ないし一〇によれば、以下の事実が認められる。

(一) 本件認可当時、本件空港敷地のうち国有地たる下総御料牧場の一部(二四三ヘクタール)については、公団が代替牧場を建設してこれと交換することによって取得することが確実であり、県有地及び市町有地(合計一五二ヘクタール)についても関係地方公共団体から公団への譲渡のために必要な地方議会の議決が得られることが確実であった。

(二) また、本件空港の位置が千葉県成田市と定められた昭和四一年七月以降、同年八月二五日には岩沢正春以下一六六名の地元住民によって「成田空港対策部落協議会」が、同年九月一九日五一名の地元住民によって「成田市十余三地区経営対策協議会」が、同年一〇月一四日には並木光一以下二〇名の地元住民によって「成田国際空港桜台対策協議会」が、同年一〇月二七日には保坂隆夫以下九九名の地元住民によって「成田空港条件斗争連盟」が、同年一一月五日には中村正以下七二名の地元住民によって「駒井野空港対策協議会」がそれぞれ結成されており、本件空港敷地内の民有地の所有者のうち約八割の者が、補償条件について合意ができれば所有地を公団に譲渡する立場にあった。

2  右認定事実に加えて、政府が昭和四一年七月四日には代替地の取得等の地元住民対策を閣議決定していたこと、本件空港がわが国の国策として設置される主要国際空港であることに照らせば、公団が国公有地や民有地の取得のために必要かつ妥当な予算措置を受けることができる立場にあったことは明らかであるから、公団は、国、関係地方公共団体及び地元住民の協力を得て本件空港敷地を取得する財政能力を有していたことを認めるに充分である。また、任意に買収することが困難な敷地があったとしても、既に認定した事実関係に照らせば、本件空港設置事業は土地収用法三条一二号に該当する事業であって、この事業につき土地収用に必要な同法二〇条所定の事業認定を受ける要件(公団が右事業を遂行する充分な意思と能力があること、右事業が土地の適正かつ合理的な利用に寄与するものであること及び土地を収用する公益上の必要があること)が認められ、右事業が第一種空港の設置事業である以上公共用地の取得に関する特別措置法の特定公共事業の認定要件が認められることが確実であって、最終的には強制的な土地取得が可能であったということができる。したがって、本件実施計画は、航空法三九条一項五号の要件に適合していたものということができる。

3  なお、いずれも成立に争いがない甲第二二一及び第二二二号証によれば、公団は、本件空港に反対して空港敷地の売却を頑強に反対する住民との話合いを促進する趣旨で、平成五年六月一六日、右事業に関して千葉県収用委員会に対して行った収用裁決申請を取り下げたことが認められるから、右時点で取得していない本件空港敷地の土地につき公団は強制的な取得ができなくなったというべきである。しかしながら、取消訴訟における行政処分の違法性の判断は処分時を基準として行われるものであって、昭和四二年一月の本件認可当時にはこのような事態が生じることが当然に予想できたわけではなく、右事実があるからということから、航空法三九条一項五号に関する本件認可当時の被告の判断が誤りであったということにはならない。

五  右一ないし四のとおりであるから、本件実施計画は、航空法五五条の三第一項及び二項所定の実体的要件を具備するものということができる。そして、同法五五条の三第二項で準用されている同法三九条二項の手続的要件(公聴会の必要的開催)が履践されていることは、右三において認定したとおりである。したがって、本件認可に、航空法に定めるところに違反する点はないものといわなければならない。

第五  本件指定の適法性について

延長進入表面等の指定は、空港の付近の土地の所有者その他の利害関係を有する者の利益を著しく害することとならないように配慮しなければらないとされている(航空法五六条の三第一項)。本件空港が、比較的平坦で人口密度もさほど高くない農地や山林を主体とする地域に設置されたことは既に述べたとおりであり、前掲の乙第一号証、第二号証の一及び二二ないし二四並びに成立に争いのない甲第一号証によれば、本件指定当時、空港周辺には延長進入表面等の上に出る高層建築物の建築物はなかったのであり、延長進入表面等の投影面内には近い将来高層建築物の建設が必要となるような人口密度が高く就労人口が多い都市部はなかったと認められるから、延長進入表面等の規制による公用制限が空港周辺の土地所有者等の利益を著しく害することはないというべきであって、本件指定は同法所定の実体的要件に適合している。

また、弁論の全趣旨によれば、本件指定に係る延長進入表面等の範囲は、本件空港の位置等と同時に告示及び掲示が行われたことが認められるところ、本件指定に先立って利害関係人から意見を聴く公聴会が開催されたことは前記認定のとおりである。

したがって、本件指定は、同法五六条の三第二項で準用される同法三八条三項及び三九条二項所定の手続を経た適法なものというべきである。

第六  結論

以上の次第で、取消訴訟の対象となる行政庁の処分とは認められない進入表面等の告示の取消請求に係る訴えを不適法として却下し、本訴提起後に原告適格を喪失した主文二項掲記の原告らの訴えを不適法として却下し、本件認可の取消しを求める原告適格を有するとは認められない主文三項掲記の原告らのその取消しを求める訴えを却下し、本件指定の取消しを求める原告適格を有するとは認められない主文四項掲記の原告らのその取消しを求める訴えを却下し、主文五項掲記の原告らの本件認可の取消請求及び主文六項掲記の原告らの本件指定の取消請求はいずれも理由がないものとして棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条及び民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官中込秀樹 裁判官橋詰均 裁判官武田美和子)

別紙被告指示に係る基本計画

空飛監第二一四号の三

昭和四一年一二月一二日

新東京国際空港公団

総裁 成田努 殿

運輸大臣 大橋武夫

新東京国際空港公団法第二一条の規定による基本計画について

新東京国際空港公団法二一条の規定により、別紙のとおり基本計画を定めたので、同条の規定に基づき、これを指示する。

(別紙)

新東京国際空港公団法第二一条の規定による基本計画

1 滑走路の数、配置、長さ、幅及び強度並びに着陸帯の幅

(1) 滑走路

イ 数

滑走路の数は、三本とする。

ロ 配置

滑走路の配置は、二本は平行滑走路、他の一本は横風用滑走路とし、平行滑走路の間隔は二、五〇〇メートル以上とする。

ハ 長さ

平行滑走路のうち一本の長さはおおむね四、〇〇〇メートル、他の一本の長さはおおむね二、五〇〇メートルとし、横風用滑走路の長さはおおむね三、二〇〇メートルとする。

ニ 幅

滑走路の幅は、各滑走路とも六〇メートルとする。

ホ 強度

滑走路の強度は、おおむね四、〇〇〇メートルの長さの滑走路及びおおむね三、二〇〇メートルの長さの滑走路については単車輪荷重四五トンとし、おおむね二、五〇〇メートルの長さの滑走路については単車輪荷重二五トンとする。

(2) 着陸帯の幅

着陸帯の幅は、各滑走路とも三〇〇メートル以上とする。

2 空港敷地の面積

空港敷地の面積は、一、〇六〇ヘクタール程度とする。

3 航空保安施設の種類

航空保安施設の種類は、次のとおりとする。

(1) 次に掲げる航空保安無線施設

イ NDB

ロ VOR

ハ その他必要と認められる航空保安無線施設

(2) 次に掲げる航空燈火

イ 次に掲げる飛行場燈火

a 飛行場燈台

b 誘導路燈

c 誘導路中心線燈

d 誘導案内燈

e 風向燈

f 進入燈

g 進入角指示燈

h 旋回燈

i 滑走路方向指示燈

j 進入路指示燈

k 滑走路燈

l 滑走路末端燈

m 滑走路中心線燈

n 接地帯燈

o 滑走路距離燈

p 非常用滑走路燈

q その他必要と認められる飛行場燈火

ロ 航空障害燈

4 工事完成の予定期限

工事は、おおむね昭和四五年度末までに、おおむね四、〇〇〇メートルの長さの滑走路及びこれに対応する諸施設の完成を予定しつつ、その他必要な事業とあわせて実施するものとする。全工事の完成は昭和四八年度末を目途とする。

5 運用時間

運用時間は、二四時間とする。

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